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2014年11月8日土曜日

灰色錫のそら

 とつぜんやって来た寒さになんの身構えもできず、生まれたての子やぎのように震えながら、千葉県八千代市大学町1-1に位置する秀明大学で開催されている学園祭「飛翔祭」に行ってきました。目的は、学生になりすましキャンパスに潜入して失われた青春を取り戻すことではなく、文学展として企画された「宮沢賢治展」を見るためです。当展示の目玉は、新発見の賢治自筆資料といわゆるブロンズ本と呼ばれる『春と修羅』。賢治以外にも同時代の周辺文献として、萩原朔太郎の無削除版及び与謝野晶子宛献呈署名入りの『月に吠える』や現存1部と云われる高村光太郎『道程』特製版、その他啄木、犀星、中也といった日本近代詩を彩る豪華メンツの稀覯本が、これ見よがしでなく当たり前のように陳列されている贅沢ぶりです。
 自筆資料は、同級生に宛てたハガキや書簡など。その筆致は、神話の世界の存在のような宮沢賢治が、東北の地で確かに生きて悩んでいたことの痕跡を生々しく表していると思いました。ブロンズ本というのは、聞くと頁が青銅で出来ているとんでもない代物に思いますが、実際は背表紙をブロンズの粉で塗りつぶしたものを称して、そう呼ぶそうです。「詩集 春と修羅 宮澤賢治作」と書いてあるのを恥ずかしく感じた賢治が、自分で塗りたくったと云います。自作の出来上がりを目にして何か屈折した感情を抱いた賢治が、わざわざ用意したブロンズの粉を本になすり付けている様は、想像すると感動的です。『「春と修羅」ブロンズ本』は、賢治の手の運動性を想起させるという意味で、おそろしく貴重な本というわけです。
 寒空の下を電車とバスに揺られて辿り着いた初めて降り立つ地。そこで見た詩集群は忘れられないものとなりました。

京成電鉄本線勝田台駅北口バス停付近
今回の自筆資料の旧蔵者、
成瀬金太郎宛のハガキ  
成瀬氏は賢治の     
  盛岡高等農林学校農学科第二部
  の同級生          



背表紙の3冊内左が普通のもの、
中と右がブロンズ本      

石川善助の没後刊行された『鴉射亭随筆』
賢治が追悼文を寄せている       
 石神井書林の内堀氏が、鶉屋書店の飯田氏に
 市場に出たら強く入札しろと教えられたのが
 この本ではなかったでしょうか。     


灰色の空と色づく葉っぱ





 
 
 
 

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