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2015年3月6日金曜日

文字文字する人たち

 駒場の日本民藝館で今月22日(日)まで開催中の「文字の美---工芸的な文字の世界」を見てきました。井の頭線の駒場東大前駅から民藝館までの道では、春の訪れを寿ぐかのように、そこら中に梅の匂いを漂わせていました。背中に陽を浴びながら、閑静な住宅地を歩くのは気持ちが良いものです。いったいこの辺りの家賃相場はどれくらいなのか、もしかして賃貸物件なんて存在しないのか、仮にあったとしても自分には永遠に縁のない土地なのか、そんなことを考えているうちに民藝館に到着。玄関前の紅白の梅も満開です。
 今回の展示では、文字の美しさを突き詰めていくと工芸的になる、という柳宗悦の文字・書に対する考え方を反映した作品が並んでいます。支持体は必ずしも紙というわけではありません。布だったり陶器だったり鉄の道具であったりして、そこに染め抜かれたものや彫られたものも、それが文字であれば柳の眼の対象になるわけです。柳が自分の好みを表明するときの常套手段にしているのが、確立した権威をまず批判することですが、文字の世界において、その対象は王羲之です。曰く、技巧に長けた書というのは我執の顕われであって、王羲之の書くものは漢や六朝の碑文の美しさには及ばないと。こうした考えはややもすると、個々の技術の研鑽を否定し、素朴なヘタウマ礼賛に聞こえますが、それでも柳が選んだものは、見ていればたしかにどれも欲しくなってきます。今回は取り急ぎ、木綿に胡粉を塗って墨染めしたという大の字文暖簾と月山牛王宝印の版木だけ貰っておいて、残りは後日また取りに来ますと深澤館長に伝えておいてください、と端に座っている学芸員の方に言づてしようかと思ったほどです。
 民藝館は企画展示以外の陳列もいいもの揃いです。堅手鉄砂草文の半筒茶碗と鴻巣人形の宝船は、誰にも言わずに持って帰りたいものだし、獅子や薬壺の描かれた江戸の早い頃の絵馬も、クートラスに遥か先駆けて作られた瀟洒で素敵なもので、ポッケに入れていつも持ち歩きたいと思いました。



 


紅梅と青空


「懲」という字です。なんでもかんでも欲しがる
 人間は懲らしめてやるという意味でしょうか。  


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