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2015年4月14日火曜日

徘徊の記

 久々にいい陽気の日曜日、せっかくの下町住まいということで、永井荷風の向こうを張って、激しい散歩に出かけました。まずは曳舟川通りと明治通りの交差点を亀戸方面へ。住所が京島になるや否や辺りの空気の流れが変わり、異界に突入したことを知らせてくれます。
 そして目の前に見えてきたのが、あきらかに建蔽率が建築基準法を上回っていると思われるディスカウントショップ。こういう場所にこそ、秋草の面取りの徳利なんかが無造作に転がっているかもしれないと思い、ちょっと店内を覗いてみました。しかし家電と荒物の山に乗っかったおじさんが、入口に立っているもう一人のおじさんに物をリレーで手渡ししているだけだったので、どうやら李朝ものは扱っていないと判断しました。埋もれたる文化を発見するのは諦め散歩続行。
 やがて右手に「下町人情キラキラ橘商店街」というキラキラしたネーミングの商店街を発見。噂には聞いていたし、近所だとも知っていましたが、来るのは初めてです。早速アド街ック天国ばりに探訪を開始。日曜のせいか、シャッターを閉めた店が目立ちますが、どこも現役感が漲っています。案内看板を見ると、いやにたこ焼き屋が多いようですが、京島の名産なのでしょうか。小腹が減っていたので、ためしに開いている一軒でたこせんを買って食べてみました。1つ60円。ミシュランの調査員に推薦しておこうと思うぐらいの旨さ。というか、すでに掲載済みかもしれません。「こんこん」という屋号の店でした。
 商店街の終点には神社があり、社のまわりは広場然として憩いの場のように開放してあります。その右手にはなぜか麦わら海賊団の旗を掲げた店が見えて、スピーカーからは宇多田ヒカルを流しています。これが鳥羽一郎だとやや俗っぽいし、かといってスロッビング・グリッスルなんか流すのは少し嫌味です。その点、宇多田ヒカルというのは実に絶妙な選曲だと思いました。覗いてみたい誘惑に駆られつつ、左折して反対方向へ。
 さて晴れた日の下町といえば、猫に出くわさなければ始まらないわけですが、路地裏にて本日一匹目の猫に遭遇。遠目には仔猫に見えましたが、発育不全の痩せ猫のようです。猫が佇む民家の玄関先に植わった桜が最後の花を散らしていて、道が花びらでべったりと染まっています。目が慣れてくると、数軒先にも一匹、すぐ向いの家の屋根にも一匹、しかしどの猫も痩せて小さい。辺りにはなにやら消毒液のような匂いが漂い、経文を読み上げる声が聞こえてきます。まるで清順映画の書き割りに迷い込んだようで、このままいると抜け出せなくなる気配がしてきたので、表通りに脱出。
 その後は東武亀戸線と総武線に沿って亀戸駅まで出て、歩行者天国の商店街を経由し、亀戸天神へ。藤の花はまだ蕾。この辺りはフロイト云うところの肛門期の頃まで住んでいたので、どこもかしこも原風景という感じで、夢の中にいる気分になります。実際これは夢で、目が醒めた後の本当の自分は、学生時代に起業してサクセスしたIT企業の社長なのかもしれないと思ったほどです。
 お腹が空いたので、先に目星をつけておいたサヴォイアという、完璧な佇まいの純喫茶に入って焼きそばを注文。その後すぐに船橋屋に行きクリームあんみつを食べるという、土地成金のような贅沢ぶり。川沿いを経て町中をうねうね歩いているうちに、なんと先ほどの海賊旗を掲げた店の前に出ました。古本もあるようですが、なぜか扱っているのが小学館のフラワーコミックスばかり。その他、雑誌の付録のセシルマクビーのバッグとか妖怪ウォッチっぽい何かが軒先にぶら下がっています。扱う品目こそ違え、どうやら同業のようなので、心の中で挨拶をして帰途につきました。結局9匹の猫に出逢うも、1匹も触らせてくれませんでした。
 というわけで、今週もよろしくお願い致します。



 
薄く香ばしい煎餅、熱々のたこ焼き、
  大振りのたこ、パーフェクトなたこせん。

不思議な路地裏にて。界隈の撮影は
憚られたので、この1枚のみ。  

東武亀戸線小村井駅付近







店名の素敵な書体、乾いた土に植わるアロエの
ような植物、隣のブティック、完璧な純喫茶。





『東京徘徊』冨田均
少年社 1979年7月23日初版
SOLD

『海事史の舞台』別枝達夫
みすず書房 1980年2月5日2刷
小口少シミ
SOLD




 
 
 
 
 

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