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2015年5月1日金曜日

死すべき運命の人の子に

 素晴らしい詩書を残した版元、書肆ユリイカや照森社の入っていたビルの二階に至る階段が、十三段であったことをユリイカ社主の伊達得夫が書いています。不吉な段数の階段は、また類を見ないほどの急傾斜で、仏文学者や詩人や製本屋の小僧さんなどがここを転げ落ちていったとのこと。当店が入るビルにも、それなりに傾斜のついた階段が備わっていますが、知る限り店主が二度ほど足を滑らせた以外に事故は起きていないようです。段数は十四段ですから、ことさら書くべきことは何もありません。店主に財を成す気配がないのは、階段が十四段であることとは無関係でしょう。
 八丁堀という、飲食以外の小商いをするには完全にアウェーの地で、築五十年を過ぎる小さなビルの十四階段を上った二階の六坪弱の一室で、手持ちの古本と古道具を並べて店を開けたのが一年前の今日でした。我ながらわけの分からない、箸にも棒にもひっかからなそうな店が誕生したぞ!と感慨に耽ったことが懐かしく思い出されます。というか、今も状況はたいして変らないので、本当言えば少しも懐かしくはありませんが。それでも、あの日から地球が楕円軌道を描いて太陽を一周りしてきたことを思えば、仄かに心が暖かくなる気もします。
 ともあれ、曲がりなりにも一年続いたのは、店主の営業努力の賜物であるはずはなく、何くれとなく手を差し伸べてくださったお客様や同業他業の方たちのお蔭であることは、言うまでもありません。やりたい事をやってたらいろんな縁が生まれてきたというのは、どうした因果応報なのか、有り難いことこの上ない話です。
 というわけで、二年目もどうぞよろしくお願い致します。





『乳鏡』田谷鋭 
白玉書房 1957年8月15日初版 帯
セロ剥がし跡 日付書込     
2,500円

ブリキ筒
高さ13×直径6.7センチ
SOLD OUT

シルバースプーン
スウェーデン 19C. 12.4センチ
SOLD OUT




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