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2015年8月31日月曜日

アナーキストたち

前回までのあらすじ・・・
 東京八丁堀で古物売買を商う逆光店主は、病に体を蝕まれながらも、欲望都市秋葉原から高速(拘束)バスで京都へ向かう。その足ですぐさまイノダコーヒ本店へ向い、発話がすべからく異様なまでに平板な青年に戦きつつ、決死の覚悟でロールパンを食す。その後、京都駅へ取って返し、同業者I氏に車で拾ってもらい滋賀大津に進路を取る。琵琶湖が眼に映る頃になると、ひと月にわたる体の不調が何故か治まるのを感じる逆光店主であった。


 滋賀にやって来たのは、そこで行なわれる物の売買に参加するためです。会場には、年間売上高が小国のGDPに匹敵する古美術商からデフォルト寸前の古本古道具屋までが、格の違いやヒエラルキーを越えて集まりますから、そこは一種の無政府状態と言ってもよい空間です。アナーキー・イン・ザ・SHIGA。誰もがプルードンや大杉栄のような横顔を湛えています。自分の持ち物が競りにかけられる前後は半分失神しているので、場の進行はほぼ記憶にありません。頬を伝った涙の跡だけが、なにかしらの闘いがあったことを知らせてくれます。
 どの業界もそうですが、売買だけで仕事が終わるということはないようで、後にはやはり大きな宴が張られました。場所はつぼ八や北の大地ではなく、日吉大社の奥に鎮座する日吉山荘。いい旅・夢気分3時間スペシャルの、しかも司葉子クラスのゲスト出演時ぐらいでしか見ることのできない本物の川床です。骨董品を買い込んだ後に、そんなところですき焼きを食ったり酒を飲んだりするとは、人生の運をすべて使い果たしてしまう行為のように思えますが、もはや成り行きに任せるしかありません。たとえば、めざましじゃんけんで無敗を誇るといったようなことで運を消費するぐらいなら、川床料理に舌鼓を打っていた方が自分にとっては有意義です。
 それにしても、前日までゆで太郎のもりそばもろくに喉を通らなかったぐらいなのに、ここに来た途端、アンドレ・ザ・ジャイアントのような健啖ぶり。やたらと飲み食いしてしまいました。ふいにこの川床の支柱が外れて、川に滑り落ちたらどこまで流されていくのだろうか、そのまま悠久の琵琶湖に流れ着いたら、それはそれで素敵だな、と暮れなずむ近江の夜に、酔った頭でぼんやりと考えていたのでした。


会場の外。青空と百日紅。


仕事の後はもう一仕事。
        日吉大社へ向かいます。        



境内をてくてく歩きます。

てくてく

てくてく
てくてく
おさる
てくてく
てくてく
遠くに見えるのが川床。

鮎。まさに香魚。
マイナスイオンが出放題。


肉を割り下で煮込むのではなくて、
 砂糖にまぶしながら焼くのが関西式。


日が暮れそうで暮れない美しい時間帯。



















 
 

2015年8月27日木曜日

いい旅悪夢気分

28日(金)は仕入のため14時からの開店です。
29日(土)はイベント「書物と音と旅を page.3」開催のため17時までの営業です。
なにとぞご了承くださいませ。


 骨董の方の仕事で先輩からお誘いをいただき、滋賀県まで行っておりました。交通費もなかなか大きな負担となって店舗運営を圧迫しますから、本来ならば徒歩で行きたかったのですが、諸々の事情を鑑みて高速バスを使うことにしました。出発地は真夜中の秋葉原。昼間の喧噪と欲望渦巻く様相とは打って変わって、歩いているのは脛に傷持っていそうな風体の輩たちばかり。みんな古物業者でしょうか・・(偏見)。
 高速バスは以前に名古屋に行った時に、一睡もできずにその後の行動に大きな負担を蒙ったトラウマから、できれば避けたかったのですが、セスナをチャーターできる身分でもないし、仕方なしの採用となったわけです。断固として眠らなければならないと思うと却って寝られないものですが、結局、断固として眠るぞと決意する夢を見ながら寝ていたようです。
 あまり寝覚めのよくない状態で京都駅八条口に到着。あとで同業のIさんに車で拾ってもらう手筈になっていて、なにやら体調もよろしくないし、こんな時は駅ナカの喫茶店で時間までぼんやりしておくべきなのですが、どういうわけか「京都の朝はイノダから」というキャッチコピーが頭を離れず、地下鉄で烏丸御池まで出て、イノダコーヒ本店に朝食を食べに行ってしまいました。とはいえ、体調不良でモーニングの「京の朝食セット」などはとても食べる気になれず、ロールパンとコーヒーなどを注文する体たらく。それなら別にイノダでなくても・・とは思いましたが、給仕してくれた青年の口上が、おそろしく棒読みなのが楽しかったので良しとします。映画監督のジャン・ルノワールは、台本の読み合せの時に、相手女優に徹底的に感情を排して台詞を読ませることで、紋切型に陥らない独自の演技表現に到達させようとしたと言います。この青年も誰に教わるわけでもなく、そのメソッドを実践しているのかもしれません。山谷のバッハだったら絶対に通用しないと思われる接客術を、彼はいつの日か自家薬籠中の物とすることができるのでしょうか。
 さて、京都駅に戻りピックアップしていただき、滋賀大津方面へ。不思議なことに芳しくなかった体調が、住所が坂本に変わるあたりから、何かしら「善きもの」が体内に漲る感じがしてきて復調してきました。車を降りて彼方を見れば、雲と青空と琵琶湖が。きっと古代の人たちも感じた、いかにも豊かな土地の気韻が自分の体を通過していったのかもしれません。
 そしてこのブログを書いている現在は、またも体調は元通り悪化。次回に続きます。



「イノダコーヒ本店」
平日にもかかわらず、開店時間7時を
        過ぎるや、すぐに満席。              

ロールパンにエビフライを挟むという。

手当たり次第撮ってたので、もはやどこだか
  分からなくなってますが・・         
「本家鶴喜そば」でしょう。        

坂本の街並。

















 

2015年8月18日火曜日

褒美

●8月の営業スケジュール
 21日(金) 仕入のため14時から開店
 24日(月)・25日(火)・26日(水) 仕入のため休業
 27日(木) 14時頃開店
 28日(金) 仕入のため14時から開店
 29日(土) イベント開催のため17時に閉店
なにとぞよろしくお願い致します。


 毎月第三日曜日は行商の日。というわけで、おとといは東京国際フォーラムの大江戸骨董市に出店してきました。一時期の恐ろしい暑さは鳴りをひそめ、風の通る日陰はことのほか涼しく、そのまま風に乗って有楽町から東京方面にゴロゴロ転がっていったら、さぞかし気持ちがいいだろうと思いました。
 10日ほど前から、骨董市に向けての商品構成や価格の見直しなどを行い、マーチャンダイジングに余念がなかったのですが、そうして満を持して持ち込んだ品物は売れず、前日に思いつきでカートに放り込んだものがよく動きました。言うなれば古道具屋あるあるですから、今さら驚きはしませんが、どうしてこう人生は皮肉に運ぶのでしょうか。底意地の悪い第三者が、人間たちをどこか見えないところから観察しているのを感じます。しかしそんな意地悪にも負けず、どうにか売上予算をクリア。前回は半ばヤケクソ気味に虎屋でかき氷を食べましたが、今回は自分に褒美をくれてやるつもりで、浅草のフルーツパーラーゴトーにて桃のパフェ(税込1,230円)を食べてきました。志賀高原産の白鳳という桃がふんだんに盛られていますが、あまりに美味いので1つでは物足りません。しかし今日のところは足るを知るということで我慢しておいてやるぜ、と捨て台詞を残しゴトーを後にしました。
 浅草のような濃厚な界隈を歩くときは自ずとその街に合わせたキャラ設定をしてしまうものです。永井荷風であったり、深見千三郎であったり、古今亭志ん朝であったり。この日は武田百合子だったので、猫に遭わなければなにやら今日という日の落とし前がつかない気分になっていました。さて、その気持ちが第三者に通じたのか、隅田川沿いの広場と遊歩道の境の草っ原に、いい顔の猫を発見。顔だけ見ると、確実に触らせてくれない系なのですが、意に反して向こうからのっそりと近づいてきました。右耳に切符のようなカットの跡があるのは、保護団体のマーキングでしょうか。だとしたら、人慣れした猫なのかもしれません。少しばかり相手をしてもらいました。
 遠出の仕入などがあり、8月の後半はイレギュラーの営業が多くなりますが、どうぞよろしくお願い致します。頑張っておもしろいものを買ってきます。


よく熟れてみずみずしい桃。

空が秋めいてきました。スカイツリーも
やけにくっきりとしています。    



すごく近づいてきました。

が、目は合わさず。

最近の買いもの。
後ろ左から曲げわっぱ SOLD OUT、松の根の掛け花入れ SOLD OUT
      捏ね鉢、道具箱 SOLD OUT                            
前左から万年カレンダー付メモ台 SOLD OUT     
江戸期の千体仏 SOLD OUT、弥生小壺 SOLD OUT          
須恵短頸壺 SOLD OUT                        







 




2015年8月11日火曜日

新富町紀行

●8月の営業スケジュール
 13日(木)・14日(金) 夏期休業
 15日(土)所用のため15時から営業
 16日(日) 有楽町東京国際フォーラム大江戸骨董市に出店
 24日(月)・25日(火)・26日(水) 仕入のため休業
 27日(木) 14時頃開店
その他日曜日は通常通りお休みをいただきます。変則の営業が続きますが、
なにとぞよろしくお願い致します。


 人は誰しも心の中に一人の若大将を持つと云います。過ぎゆく日々の暮らしのなかで、不意に若大将が頭をもたげたとき、なにやらジッとしていられなくなって、悠々としたそぞろ歩きに出たくなるそうです。自分も今日はそんな衝動に駆られて、東京は中央区の新富町にやって来ました。


 有楽町線新富町駅を地下から上ってくると、大きく開けて明るいことに驚きます。中央区役所のような大きな建物があるのにもかかわらず視界を遮られることなく、かえって黒褐色の建造物と空の青のコントラストが、広々とした奥行を感じさせるくらいです。その区役所を正面から入って右壁沿いを行くと、仄かなノスタルジーを刺激して止まない、いかにも公共施設に入っていそうな食堂があります。カレーライス430円。今の自分にはやや過ぎた贅沢です。




 食堂の脇にどことなく市民プールにでも通じていそうな階段がありますが、その先にはプールではなくて京橋図書館があります。中央の図書館と聞いて思い浮かぶ知の殿堂といった風情は一切なく、牧歌的な町のコミュニティのようです。蔵書はけっこう揃っているようなので、今後は当店の得体の知れない道具類はこちらで調べることにします。







 区役所向かい新富町駅3番出口を出てすぐ左手にあるビルの3Fに入るのが、生活こっとうと手仕事の店「さんのはち」です。店主の瓢箪好きを店内の随所に窺い知ることができます。おもしろいものが絶妙に配置してあるので、手元不如意のときの長居は注意が必要でしょう。




 さんのはちのビルを出て右、首都高を越えて左手4本目の道を入り少し歩くと、活版印刷界の雄、「中村活字」があります。抽象的な単なる記号と思われがちな文字という存在が、実は手触りのある物質的なものであることを教えてくれる場所です。当店の名刺はこちらにお願いしております。
取って返して首都高の1本左の道を往けば、右手に「森岡書店銀座店」が見えてきます。1点の本だけを売るという怖るべき業態ながら、前を通れば常に誰かしら店内にお客さんがいるという、真に怖るべき店舗です。

 8/11(火)〜16(日) 『はいくないきもの』展を開催中。    
展示タイトルと同名の書籍販売の他、ミナ・ペルホネンの
オリジナルトートも販売。 13時〜20時             

 京橋ジャンクション下の京橋消防署の目の前に、その謎めいた店はあります。その名も「喫茶Q」。喫茶を名乗っているからには、何かしらの飲料物を来店者に飲ませることで生計を立てていることが推察されますが、自動販売機の物陰に位置するこのような立地で、生業として成り立っているのか。と、人のこと言ってる場合ではないながらも、巨大な疑問符が頭上に浮かんでこざるを得ない状況。なるほど、Qとはクエスチョンのことなのか・・。こういう素敵な店を見ても、いつも勇気が出ずに後ろ髪を引かれる思いで通り過ぎてしまう自分ですが、本日は潜入を敢行。詳細はまた後日報告いたします。

 

フォントの組合わせが絶妙。


看板はあれど、入口は完全に死角。

セットメニューが用意されているところを  
見ると、現役感は大。           














2015年8月3日月曜日

悲しき亜熱帯

●8月の営業スケジュール
 7日(金) 仕入のため15時開店
 13日(木)・14日(金) 休業
 16日(日) 有楽町東京国際フォーラム大江戸骨董市に出店
 24日(月)・25日(火)・26日(水) 仕入のため休業
 27日(木) 14時開店
その他日曜日は通常通りお休みをいただきます。なにとぞよろしくお願い致します。


 昨日はいつものように有楽町の大江戸骨董市にて行商。暑くてあまり売れませんでした。と、ありきたりのことを言っても仕方ないのですが、かといって、肌寒くてバカ売れでした、と嘘をついても同じように仕方がないわけです。
 古物業者にかけられた八月の呪いを打ち破るために、人は何をしなければならないのでしょうか。神話の世界に目をやれば、登場人物がタブーを侵すことで、物語が大きく展開を見せることに気付きます。それに倣って何か禁忌を破れば、この停滞感を突破する糸口を見出せるのではと考えました。古物業者にとってのタブー、それは売れてもいないくせに贅沢をすること。というわけで、骨董市撤収後に東京ステーションホテル内のトラヤトウキョウへ生姜みぞれかき氷を食べに行ってきました!汗と涙まみれになりながら重いカートを引き摺って入るには、少しラグジュアリーに過ぎる東京ステーションホテルですが、もはや涙で前が見えなくなっているので、そのあたりはたいして気になりませんでした。
 生姜みぞれ。国産生姜を使ってつくられた蜜と白水羊羹と白小倉餡が奏でる、氷の上のやさしい三重奏。税込1,080円。と、やさしくない価格に戦きながらも黙々と完食。この掟破りが今後の業界をどう揺るがしていくのか、皆さまにおかれましては、なにとぞ刮目してお待ちいただきたく思います。というか、単に仕事帰りにおいしいかき氷を食べたという話でした。今週もよろしくお願い致します。





敷布の蚊帳生地に写り込む樹の影が
遠ざかる夏の一頁を思わせますが、
実際は凶暴な太陽光が容赦なく  
降り注いでいます。       


生姜みぞれ  
トラヤトウキョウ限定 9/下迄