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2015年1月26日月曜日

詩人たち、12人

29日(木)は仕入のため14時半頃の開店となります。
2月1日(日)は有楽町の東京国際フォーラムで開催される
大江戸骨董市に出店いたします。
どうぞお出かけくださいませ。

 
 大寒というだけあって、さすがに懐の寒さが半端ではありません。この時期は衣食住にことさら金銭とエネルギーを費やさざるを得ませんから、古本や古道具などにうつつを抜かしている場合ではないのかもしれません。とはいえ、このまま手をこまねいて犬死にするわけにもいきませんから、イベント流行りの昨今、当店でもそうしたものに挑戦してみることにしました。その第一弾(二弾以降があるかはまた別の話です)が、24日に開催した「詩について・対話篇」です。開催と言っても場所を提供しただけで、実際の仕切りは詩人の古溝真一郎さんが執り行いました。古溝さんが事前に募った詩人たちが集まり、各自持ち寄った詩を巡って言葉を交わし合うという趣旨のイベントですから、店主は特にすることがない上に参加費も徴収できるのですから、これこそ真の不労所得です。この手のイベントを繰り返せば、いつしかビルが建つのではないかという夢想に駆られますが、世界は常に皮算用が通用しないようにできているようですし、そもそもビルの所有に興味がないのでした。
 集まった詩人は最終的に12人。うち1人は3歳になったばかりですから、詩人と呼び得るかは定かでありませんが、ことによったら最も純度の高い詩人と言ってもいいかもしれません。店主を入れて13人、今にも幸せなことが舞い降りてきそうな人数です。当店開業以来、これだけの数の人間がいっぺんに店に入ったことはありません。床が抜けてドリフのコントのような様相を呈したら、さぞかし痛快だろうという妄想が頭から離れなくなります。
 それにしても、言葉を表現の道具に使う人間が一定数集まると、唯一自由に話せると思い込んでいた日本語さえもが外国語に聞こえてきます。店主は端っこでぼんやりとお茶を飲んでただけですが、耳に入ってくる言葉の応酬は、さながら文法を改変する現場に居合わせているかのような気分にさせます。話は延々と二週間ぐらい続きそうな気配でしたが、それでもみんな一般文法の世界に戻らなければなりませんから、不意にブツッと切断するかのように終了し、詩人たちはいなくなりました。そのあとの店内に並ぶ本と道具は、いつも以上に静かに見えるのでした。
 というわけで、今週もよろしくお願い致します。



会場となった八丁堀の書肆逆光店内


醤油煎餅を干す網越しに見える詩人たち

左から 土師壺の口、薬品の瓶 SOLD OUT、『癌』遠地輝武、板きれ、
          折り紙の独楽、『朱塔』長田恒雄、『斜塔の迷信』西脇順三郎、
   とある詩人の娘が描いた絵          

2015年1月19日月曜日

呪われた詩人たち

21日(水)は仕入のため15時からの開店です。
24日(土)は詩のイベント「詩について・対話編」のため店舗は貸切りとなります。
なにとぞご了承くださいませ。
25日(日)は乃木神社骨董蚤の市に出店いたします。
皆さまのお越しをお待ちしております。


 昨日の大江戸骨董市では、売上額最低記録を更新。はたして打開策はあるのか!?と道端に疑問符を叩きつけるも、跳ね返って顔面を直撃。恐るべき現実に堪えながらの帰途。そして苦悩のあまり夜も眠れず。というのはウソで、早起きしたのでむしろ熟睡できて、却って普段より健やかな気分で朝を迎えました。冬の朝陽はとても気持ちがいいものですね!というわけで、儘ならぬ浮世の習いに翻弄される日々が続いておりますが、今後ともよろしくお願い致します。
 さて、上記24日の詩のイベントについて。当店は場所の提供のみですので、当日店主は脇でヒンズースクワットでもしながら見物してるだけです。概要は、詩人の古溝真一郎さんが詩を実作している人たちに声をかけて、集まった同志が各々の詩を読み合い、批評し合うというもので、ことによったら殴り合いも辞さないと言ってた気がします。まさに文壇が機能していた頃の新宿ゴールデン街の様相を呈するのでしょうか。だとしたら、誰が中上健次で、誰が若松孝二で田中小実昌なのか。あまり煽ると傷害予備罪か現場助勢罪でも適用されかねないので止めておきますが、何かが始まる(もしくは終わる)予感はします。
 詩を読み詩を愛する者はすでにして詩人であるという三好達治的スタンスに立てば、別に著作を出してなくても、それが生業となっていなくても、詩人という人種は存外多いのかもしれません。そもそも詩を以て生計を成り立たせているのは、日本では谷川俊太郎だけだとはよく聞く話です。詩人の書いた詩を詩人が読み回すという構図は、業者間で買い支え合う古物商に似ていなくもありません。狭い世界の中の自家発電で終わるのか、どこからともなく奇跡のような閃光が迸るのか、散文的欲望が充満する世界に対する詩的なものの闘いが、八丁堀二丁目で密やかに繰り広げられます。


『詩劇 ミルクの森で』 ディラン・トマス
国文社 松浦直巳・青木庸效訳    
1967年12月20日初版 ピポー叢書82  
カバー擦れ汚れ 小口天シミ     

『ポウ詩論集Ⅰ 詩の原理』       
国文社 前川祐一・工藤昭雄共訳   
1959年4月20日初版 ピポー叢書58  
書込みアリ             
 
『うれうれうぐうす小人』佐々木洋一  
青磁社 1975年4月15日初版     


上から
SOLD OUT
1,300円
SOLD OUT     





 

2015年1月16日金曜日

鯉の予感

明日17日(土)は仕入で15時からの開店となります。
なにとぞご了承くださいませ。
18日(日)は有楽町の東京国際フォーラムにて開催の大江戸骨董市に
出店いたします。
防寒対策を万全にしてお出掛けください。

 松の内もとうに過ぎて、すっかりと日常を取り戻した感のある中央区八丁堀。殊の外いい陽気の空の下を歩いて店に向かっていると、ふいに心をかすめる楽しげな予感(売上げ3倍増とか)。しかしそれは常に予感にしか過ぎず、感覚を研ぎ澄ませてみれば、町の方々から感じられる得体の知れない不穏な空気。どこの馬の骨とも分からぬ古物商なんかには、断固として儲けさせるわけにはいかないという邪悪なパッション。といったような、妄想の悪循環にはいくらでも沈潜していられるわけですが、歴史も過渡期を迎えていることですし、そんなネガティブ思考にいつまでも浸ってはいれらません。何事も最初からうまくいかないことが分かっていて、事実うまくいっていないのであれば、それは思惑通りに事が運んでいると言ってもいいわけです。鯉の滝登りのつもりで頑張ります。よろしくお付き合いくださいませ。

紀泰山銘拓本

 

2015年1月12日月曜日

馬車道の日曜日

今週は15日(木)が仕入のため14時半頃の開店、
16日(金)も仕入で13時の開店です。
18日(日)は有楽町東京国際フォーラムの大江戸骨董市に
出店いたします。
なにとぞよろしくお願い致します。

 目白の長谷雄堂さん推奨の展覧会「発掘された御仏と仏具」を見に、神奈川県立歴史博物館に行ってきました。主に神奈川県内で発掘された古代・中世の信仰の遺物を陳列しています。中央の、つまり奈良京都周辺の伝世の文物ではなく、当時としては遥か辺境の関東地方の発掘品が見られる貴重な機会です。仏教が日本に膾炙する以前の古墳時代末期において、その辺りから出土する仏具というのは、信心を顕わすものというよりは、地方豪族が権威を誇示するステータスアイテムの意味合いが強かったとのこと。都の流行りものを手にして、中央との結びつきを自慢したかったようです。これらの物は、教科書に載っている大文字の歴史には表れてこない当時の生活史を生々しく見せてくれます。
 例によって欲しいものがたくさんありました。トーハクで見るような国宝級とは違い、ことによったら本当に入手できるかも、と思わされるものが数多くあり、いっそう物欲を刺激されるのでした。充実した展示にもかかわらず、入館には観覧料として300円払うだけ。いくらデフレとはいえ、安いにもほどがあります。100回見ても3万円、100万回見ても3億円です。展示は今月18日までですから、残された時間はあとわずか。万難を排してのお出掛けをお奨めします。
 思いもかけず長い時間を観覧に費やしてしまい、お昼ご飯がすっかり遅くなりました。ここでも長谷雄堂さんのおすすめに乗って、市営地下鉄にて阪東橋の「酔来軒」まで。空腹で意識朦朧となって辿り着くも、無情の臨時休業。素晴らしい展示を見て、そのうえ旨いものまで食ったとなると、森羅万象を司る何か見えない力のバランスが崩れるということでしょうか。今回は素直に諦め、次善の策として近くの横浜橋商店街の「ラーメン屋けん」にターゲットを変更。しかしそこは武蔵小杉に移転した後。そこで、商店街脇の路地に見えた中華料理屋をのぞいてみるも、準備中。もはや食べ物でありさえすれば何でもいいという気になって、文化祭の模擬店みたいな店構えの中華料理屋に入り、ワンタン麺でなんとか空腹を凌いだ次第です。というわけで、楽しい日曜日でした。
 今週もよろしくお願い致します。


神奈川県立歴史博物館
旧横浜正金銀行本店本館 国指定重要文化財



あまりに格好いい正面入口




入館料300円を払い中に入ると手渡される
  無料のパンフレット           


充実した内容

他に類例がないと云われる梵字が
刻印された緑釉の皿      




関東から出土した白鳳仏

 
木彫の愛染明王の念持仏
素晴らしい作行き   

どことなくタルコフスキー的な風景の
市営地下鉄関内駅構内       

2015年1月7日水曜日

円環構造

明日8日(木)は急遽、仕入の用が入りました。
15時頃の開店となります。
9日(金)も仕入です。14時から開店いたします。
なにとぞご了承くださいませ。

 日本橋茅場町の森岡書店にて開催中(1/5〜10)の蚤の市には、皆さん、足を運ばれましたでしょうか。森岡書店内に10の業者が集って、見どころのあるものを並べています。森岡さんの空間に置いてあるとなんでも良く見えますから、散財を警戒するあまり行くのを取り止める人もいるかもしれませんが、昼ご飯を2週間ゆで太郎のわかめそば(360円)だけにしてでもお出掛けすることをおすすめします。主宰は堤純一氏。自身、アンティークのディーラーであり、またこうしたイベントのコーディネートも手がける方です。その公平無私な態度から、ときに天使のようだと言われる人ですが、だとしたら森永のエンゼルみたいなのではなくて、ミカエルとかガブリエルといった上位階層の天使に違いありません。
 森岡書店を出たら左に折れて道沿いに歩き、新亀島橋に行き当ったところで左折、橋のたもとに味わいのあるビルがありますが、その5階にギャラリーMAREBITOが入っています。大江戸骨董市に自作のメトロノームを並べているのをご存知の方も多いでしょう。MAREBITO さんでは森岡書店蚤の市に合わせて、〔便乗〕古道具市を開催中(1/5〜9)です。築半世紀以上のビルでエレベーターがないのですが、店内から眺める外の風景はパリ15区のアパルトマンから見下ろすセーヌ川のように素晴らしく、肉体を駆使した労に見合うものです。パリに行ったこともないのに断言するのは憚られますが、おそらくそんな感じに違いありません。
 元の道に戻って八丁堀方面に歩いていくと、カワイイブレッド&コーヒーがあります。自家製パンとコーヒーの店ですので、ここでひといき入れるのをおすすめします。かなり旨いパンとコーヒーを出します。
 ここまで来たなら八丁堀交差点を渡って、当店の入るビルまでぜひ足を運んで下さい。3階にはプラグマタというギャラリーがあり、ギリシャ人オーナーの研ぎ澄まされた審美眼で選択されたものが並んでいます。当今の生活工芸とは二味か三味ぐらいは違う作品を見ることができます。その下に当店、書肆逆光があります。よく分からない品揃えに思われるかも知れませんが、店主も同じことを思っているので、そのあたりを共有できたら嬉しく思います。
 ビルを出て左折、突き当たりをまた左折してずんずん直進すると、そのうち曲がり角に神話的名店中華シブヤが見えてくるので、パンとコーヒーで物足りなかったら、ここでチャーハンや焼きそばなどを頼むといいでしょう。シブヤを右に曲がり首都高下をくぐると都営浅草線宝町駅の出入口があります。地下鉄で東日本橋駅まで行き、B1出口を出て直進、横断歩道を渡った先の路地に入ると、中央区東日本橋の奇跡、No CONCEPTが見えてきます。No CONCEPTさんはアンティーク雑貨とヨーロッパテイストの古着を扱っており、物の配置の妙味は一見の価値ありです。
 そこから清洲橋通りと新大橋通りを歩いてくれば、再び茅場町に戻ってこられます。年明けの冷たく乾いた空の下を延々とループし続けるのも一興ではないでしょうか。ついでのお立ち寄りをお待ちしております。



 

一見するとオフィスだけの街に、結構いろいろな
  店が点在しています。それがつながって線になりつつ
  あります。                   


2015年1月5日月曜日

ただの初心者

本日より店舗営業を始めております。
どうぞお運び下さいませ。

9日(金)は仕入のため14時からの開店です。
なにとぞよろしくお願い致します。


 昨日は有楽町東京国際フォーラムで開催された大江戸骨董市に出店してまいりました。今まで売上げをかろうじて支えていたと思われるビギナーズラックも、どうやら今回で潰えたようです。つまりラックがなくなり単なるビギナーになってしまったわけで、実際商いはそこからが勝負なのですが、荒波をかいくぐる術を知らないままアンパンマンボートで漕ぎ出してしまった自分には途方に暮れる状況です。それでも同業の方やお客さんと話をしていると、根拠のない勇気が内に湧いてくる気がして、ゴムボートもヤマハ発動機搭載の小型船舶ぐらいには思えてくるから不思議です。
 行き先を告げないミステリーツアーも、旅行会社は目的地を当然あらかじめ決めているはずですが、当店の場合、店主はこの店が将来どこに行き着くかを一切理解していません。この方向なら伊香保温泉だろうと当たりをつけていたのに、着いた先はなぜかコロラド州のデンバーだったということもあり得るわけです。それなら、UFCでも観戦してから帰るのかと思いきや、なぜか歩いてロッキーマウンテン国立公園に出かけてしまいかねない。そんな見えない力に抗えぬまま、今年も生き抜いてまいりますので、なにとぞご贔屓のほどお願い申し上げます。






『フランドルへの道』クロード・シモン
白水社 1966年2月5日初版 帯背少破れ

 

もはや話がどう進んでいるのかまったく
      分からない圧倒的な言葉の自律性         

950円    

2015年1月1日木曜日

雑煮、珈琲、隅田川

あけましておめでとうございます。
旧年中は皆さまのご愛顧を賜り、無事に乗り切ることが
できましたこと深く感謝申し上げます。
本年もなにとぞ変らぬご贔屓をいただきたく存じます。

仕事始めは4日(日)の有楽町東京国際フォーラム開催の大江戸骨董市です。
店舗営業は5日(月)から。どうぞお運びくださいませ。

 寒風吹き荒ぶ灰色の元旦。雑煮を食してから近所の神社へ出向きました。商売繁盛、家内安全、無病息災、人間山脈、風林火山、とっさに思いつく限りの四文字熟語を祈願して参拝終了。その後、新たな年を迎えたこの国の様相をつぶさに観察しておこうと思い立ち(ウソ)、その足でそぞろ歩きに出発しました。
 人間という生き物は、寒い中をあてもなく歩いていると喫茶店でコーヒーが飲みたくなってくるものです。それもチェーン店系ではなくて、ヒゲのマスターが自家焙煎の豆を丁寧に一杯ずつドリップしているような店。このまま足の向かう途上にある素敵な喫茶店といえば、なんといっても山谷のカフェバッハなわけですが、はたして元旦に開けているものかどうか。で、調べてみると、年始休みを5日(月)〜9日(金)にずらして、1日(木)〜4日(日)は営業するという壮挙に出ていました。たしかバッハにはヒゲの生えた従業員はいないはずですが、この際ヒゲの有無は云々すべきことでないでしょう。勇んで駆けつけ、ブレンドとショートケーキを注文。年の初めから旨いものを飲み食いさせてもらえたことに感謝の念を禁じ得ないまま、浅草方面へと足を延ばしました。
 元旦の浅草寺はどんな様子かと物見遊山の気分でしたが、案の定すさまじい人の出です。屋台の種類も多く、メロンパンみたいな甘味料とオタフクソースとジャガバタが混じったような匂いがしたり、店頭にショッキングピンクのチョコバナナが突き刺さっていたりと、相変わらず嗅覚にも視覚にもどぎつい寺社仏閣だと思いました。それから、松屋浅草方面に抜けて、アサヒビールの珍妙な建築物を見ながら隅田川を越えて、スカイツリーの異様な威容を横目に帰宅。
 こうして特に意味もなく歩き廻るのは、いろいろな発見があったりなかったりして、なかなか楽しいものです。当店にもぜひ意味もなく足を運んでいただきたく思っております。なるほど、たしかに意味のないものばかりが並んでいると感じていただけたら幸いです。
 今年もどうぞよろしくお願い致します。




地元の小さな神社
散歩の途中で見つけた店
   カレー屋ではなく、カレー粉屋


泪橋交差点
明日のために、新参の古物商はここを
一度は訪れなければならない    




浅草寺
猥雑な雰囲気を濃厚に漂わせながら、

東京都内最古の仏閣の格式も見せる





東武系車輛は常に切ない


垢抜け切ってしまっては面白くない
        ということを教えてくれる構図         

上に同じ




素敵な物件


貸し物件
半世紀後にもまだあれば逆光二号店として
 検討したいところです