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2016年1月31日日曜日

朗らかな呪詛のために

2/11(木・祝)〜20(土)は伏木庸平個展『うぶの渦』を開催いたします。
現代美術シーンを縦断(もしくは横断)する驚愕のステッチワークを
見にいらしてください。


 晴れ続きだった天気が小糠雨になり、いつしか霙まじりの霧雨に変わったのは、何か途方もない出来事が起こる前兆なのではないか、と外を見ながら夢から醒めきらない頭で考える。日付は1月30日。だとしたら、今日は呪詛と祝福を高らかに歌い上げる日。というわけで、ついに幕を切って落したうつわノートさんの展示『衝撃の美〜Alternative Value』に行ってまいりました。
 東武東上線川越市駅からすたすたと歩いて喜多院まで辿り着き、山門を抜けて急カーブの道路を渡り、日枝神社を横目にやり過ごして、奇怪なちびまる子ちゃんのような看板が立てかけられた角を曲がると、見えてくる白亜の邸宅。そこが会場のギャラリーうつわノートです。扉が結界になっていて、開けた途端に広がるもう一つの世界。もはや工芸文化を発信する瀟洒なギャラリーの面影は鳴りを潜め、ケ・ブランリー美術館川越分館といった趣き。願わくはこれを並べて平地人を戦慄せしめよと言わんばかりの、怖るべき物の数々。物が放つ情念のせいか、撮った写真はすべて異様なハレーションを起こして使い物になりません。というのはウソで、雰囲気に気圧されて撮るのを忘れてました。なので皆さま、ぜひ川越まで足を運び現物を目撃してください。古物、現代美術合わせて、アートシーンにおける現時点での最先端の発信地は川越です。
 今回最も驚かされたのは、「菩薩パウダー」と称された展示物。一体どこの地域にこのようなものを信仰する風習があるのかと訝しく思いましたが、聞けば年月による劣化で粉々になった塑像を集めて瓶に入れたのだとのこと。そして隣りにはジャコメッティの彫刻のようなその菩薩像の骨組み・・。デュシャンの便器から約100年、前人未到のコンセプチュアルアートへの挑戦なのか、単なるもったいない精神の発露なのか。おそらくどこの美術館も古美術商も扱ったことのない代物。まさに衝撃の美。
 美が慣習的、制度的なものであるとすれば、その枠組みを外側から崩壊させてみたいという衝動。目筋の良さというものが、せいぜい他人の欲望の先取りにしか過ぎないのであれば、いっそ誰も追いつけない場所から物を見つけてきたいという情動。謎めいたパッションに憑かれた4人の古物業者が集めた物にぜひ対峙してください。


エウェ族の祖先像


喜多院 泥棒橋側入口

喜多院山門



日枝神社




ギャラリーうつわノート







 
 
 
 
 

2016年1月25日月曜日

頭寒足熱ララバイ

30日(土)は所用及びイベント『詩について・対話篇』開催のため
店舗は休業いたします。なにとぞご了承くださいませ。


 風邪の諸症状に苛まれた日々からようやく復活するも、明らかに病み上がりの体調。それでも力を振り絞り、冷えきった雑居ビルの一室で鈍い頭を稼働させて、今後の行く末に思いを馳せてみました。いいものを仕入れる→たくさん売る→お金持ちになる そんな中期経営計画を立案してみましたが、ざっくりしすぎで実現の見込みがなさそうです。それもこれも寒さのせいでしょうか。
 暦の上では大寒。七十二候を見れば、今は初侯の款冬華(ふきのはなさく)から次候の水沢腹堅(さわみずこおりつめる)にあたるようです。コンクリートジャングル八丁堀にフキなどが芽吹くとは思えませんが、その代わりに芳香と苦みに満ちたアイデアを今年は実現していきたいと思っています。第一弾が前回お知らせした伏木庸平個展『うぶの渦』。第二弾以降は未定のままですが、何かその萌芽の兆しが見え始めているような気がしないでもない気がします。
 ともあれ、うつわノート『衝撃の美』→書肆逆光『うぶの渦』、幾何『古道具 ミタテ 幾何ニテ』→銀座メゾンエルメスフォーラム『シャルル・フレジェ展 YOKAINOSHIMA』と最果てのような展示が同時多発的に開催されるのは、何かが始まるもしくは終わる機運なのかもしれません。
 では、今週もよろしくお願い致します。


 あまりに寒いので、身も心も温かくなるお品をご紹介するWEB行商のコーナーです。



須恵器 坏身
直径11×高さ2.8〜3.7センチ
坏(つき)と呼ばれる蓋物の容器の部分です。  
    会津大戸古窯跡群出土。              
 

内抱えになった口縁部の作りが、   
この手の器としては珍しいと思います。
加えて、時代物のブリキの容器のように
凹んだ底部、堅く焼き上がったマットな
グレーの色味が合わさって、図らずも  
ほのぼのとする造形を産み出しています。

口縁部欠けあり。灰を被って
景色もあります。     
SOLD OUT
     


初期伊万里の陶片
最大径14.5×高さ2.9センチ

陶片なので当然割れてるわけですが、  
口縁もよく残り、元の形が頭の中で容易に
再現可能です。陶片としては完品ですね。
SOLD OUT

『村 '73-'84 東北』須藤敏彦
PHOTOS舎 1985年7月6日発行
筒函欠け 裏見返し値札剥がし跡

1978年の岩手県九戸郡野田村と
花巻市の風景。

sold     
      


 

2016年1月13日水曜日

渦渦する渦

15日(金)はイベント『書物と音と旅を page5』開催のため
営業は18時までとなります。

17日(日)は有楽町東京国際フォーラムの大江戸骨董市に出店いたします。
魅惑的な品物を物色中です。どうなりますでしょうか。


 その日暮らしの古物商たちのための商業施設「八丁堀ヒルズ」建設を夢見て、大手ゼネコンを招集し、ひとつコンペティションでも開催しようかと意気込むも、年明け早々体調を崩し、最近まで寝込んでいました。それでも朽ちかけた自転車で今年もなんとか綱を渡りきってみせると夢の中で誓った次第です。
 さて、来月に当店で開催される伏木庸平(ふせぎようへい)個展『うぶの渦』をご案内いたします。これは決して綱渡り企画などではなく、一年ほど前から綿密というほどではないにしても、幾度かの合議を経て熟成発酵の後いよいよ発表の段となったものです。



 DMの概要をお読みいただくと、なんだかよく分からないということがお分かりになるかと思います。平たく言えば、伏木庸平という名の人物が作った上記写真のような物体を、書肆逆光に並べるという企画です。そしてそれ以上は詳らかにできない、というか何も決まっていないのです。草創期の縄文人が作り出した土の器のような、李参平が初めて窯から取り出した白磁のような、前田光世から教えを受けたばかりのグレイシー柔術のような、発生状態の蠢きを提示したいという欲望だけが、頭に渦巻いています。
 当イベントに先んじて、埼玉県川越市のギャラリーうつわノートでは『衝撃の美〜Alternative Value』が開催されます(1/30〜2/8)。名づけ得ぬものを通じて呼応しあうかのような二つの展示。川越と八丁堀に極彩色の重力の虹が掛かるでしょうか。ぜひお運びくださいませ。








2016年1月3日日曜日

海辺の歌

本年は1/5(火)からの営業です。
お節やお餅に飽きたら八丁堀へ!


 海を見なければならないという突然の衝動に駆られて、京浜急行で一本、終点の三崎口まで行ってまいりました。そこからバスに揺られて20分ほどで三浦半島の南端、城ヶ島に着きます。そこの県立公園がいいと聞いてズンズン歩き廻ろうと勇んで来たのですが、勇み足で突端に来過ぎたようです。徒歩で北原白秋の歌碑のある公園入口まで取って返してきました。
 旅の始まりは腹ごしらえからということで、軒を連ねる食堂の中から最もレベルの高そうな店を覗き込むと、まだ本格営業を始めていないのか、積み重なるダンボールが場所ふさぎになっているその隙間で、おばあちゃんが焼きうどんを食べていました。目が合うと中に入るよう促されました。ぜひにと言われて無碍にもできないので、恐る恐る席に着いて店内を見回すと、座敷などもあり実際は割と広いように思えました。ただ、導線を椅子や什器がふさいでいたり、本来は客席であろうスペースが荷物や週刊少年ジャンプで埋まっていたりと、空間のコーディネートが見たことないほど斬新です。二人座ったら満席になってしまいました。




バスの終点から来た道を戻る途中。
海のある街に来た実感が湧きます。


マレビトさんが買ってくれそうなものを
探してみましたが断念。       
昔のデザインのファンタ缶が落ちて
ましたよ。           



おばあちゃんが一人で営む食堂。

オロナミンCの保冷庫に布類が格納  
されています。上代裂が隠されていたり
しないでしょうか。         
年季の入ったサンプルケース。

メニューの数から察するに、  
通常営業ではもっと従業員がいる
ように思えます。       

チャーハンを注文。ちくわが入っていました。
450円。安過ぎます。           

 つげ義春的な衝撃に包まれながら会計を済ませると、おばあちゃんは売り物の水仙の花束をくれました。暖簾がなぜか店内に掛かっていて、荷物の陰になって屋号は分からずじまいでした。この時点で旅の醍醐味を味わい尽くした感はありますが、気を取り直して公園に向かいました。ついさっきまで晴れていた空に大きな雲がかかって、薄暗くなってしまいました。海の街に来てまでチャーハンなど食べたからでしょうか。
 公園は整備された遊歩道をぐるりと一周りするぐらいだと思っていたら、途中からいやに野趣に富んだところを歩いていました。


インデペンデンス・デイ的な雲。
灯台。わーいと駆け寄ろうとするも
波が強くて腰が引けました。   


けっこうな荒波。

いい顔の猫発見。触らせてはくれず。

不条理演劇の舞台のような休憩場所。


ウミウが越冬する断崖。岩肌が白いのは 
糞によるもの。枯れ草の薄茶との    
グラデーションがおいしそうに見えます。



てくてく歩く。



波と風雨による浸食でできた
馬の背洞門。       
ここで行商してみたいものです。


 寒くはありませんでしたが、海からの強風に煽られながら歩き廻ったので疲れました。枯れ草に覆われた道を当てずっぽうに歩いていたら、始めに来たバスの終点に降りてきていました。糖分を補うために食堂でソフトクリームを摂取。結局三浦に来て海の幸を一切堪能することなく終わりました。帰りの電車では、もう二度と目が覚めないのではと思われるほど寝てしまい、起きたらいつもの高低差のない下町でした。


おばあちゃんからもらった水仙。










2016年1月2日土曜日

暮れゆく夕べの空

本年の営業は1/5(火)からです。
古書・古物の買い初めは八丁堀で!お待ちしております。


 跳ね起きて太陽に向かって走り出したくなるような、素晴らしい青空の広がる年明けにもかかわらず、人は得てして昼まで寝てしまうものです。慣例上は喪に服す身にあるので、オープンのベントレーに乗って、町内にお年玉を撒き散らしながら走り回るといった行動は控えなければなりません。ということで、午後から昨年と同じように山谷のバッハ詣でに行ってまいりました。
 見慣れない場所を歩くと脳の働きが活性化するらしいので、いつもとは違う道に入ってみました。地震が起きた際の地域危険度測定調査では国内上位に位置する区画だけあって、狭く入り組んだ路地に古い家並が軒を連ねています。一本向こうの道路を越えればもう知った場所なのに、見たことない建物に視界を塞がれていると、未踏の地に小旅行に来たようです。馴染みのありそうな気配の道を周到に避けて歩いていたつもりが、急にいつもの散歩コースの大通りに出て、夢から覚めた気分になったりします。 


古い写真館の窓。


白鬚橋。橋が見える場所を歩くと    
 いつだっておかしいほど気分が高揚します。

聖地カフェ・バッハ。店の前には結構な行列。

 ちょっと異邦人気分を満喫しながらバッハに到着。喫茶どきであったので、案の定店の前には列ができていました。2週間ぐらい待たされそうに思いましたが、店員の方々の水際立った動きによって実際には20分ほどで入店。ブレンドとシュークリームを注文しましたが、テーブルに置かれるなり瞬時に平らげてしまったため、写真を撮り損ねました。豆を買いましたが、果たして店と同じように淹れられるでしょうか。
 その後はまた彷徨い人となって街を放浪。道に迷ったふりをして、ふだん曲がらない路地に入ってみたり、曲がるべきところを真っ直ぐ歩いたりしました。


扉の淡い水色が素敵な建物。
婦人靴のメーカーです。  

一切のキャプションもなく、    
ただ「モンブラン」とだけあります。


「あいつのピッツァ」という店が。    
「俺のイタリアン」の向こうを張っているの
でしょうか。             

素晴らしい佇まいの建物。

玄関前にはこれまた素晴らしい
狸の置物。         



下町の雰囲気を濃厚に発散させている
待乳山聖天」。喪中ゆえ参拝はせず。
池波正太郎生誕の地ですね。    
隅田川沿いの柵にとまる鶺鴒。   
冬バージョンなのか、ふだん見かける
よりもふっくらしてます。     


 この辺り、視界に入るものがほとんど人工物なので、歩いていると気疲れする人もいると思うのですが、日が落ちてシルエットだけになった建物群は、なかなか見物です。


 ここまで来ると、あとはどうあっても知った道なのですが、往生際悪く迷子ぶって歩き続けました。参拝客の流れを見越してのことなのか、元日から営業している店が点在しています。

名店の誉れ高い喫茶「カド」。 

すぐ近くの純喫茶「マリーナ」。
                   

そそる入口の光景。

すたすた歩いていくと、たしかに三囲神社が。参拝を済ませた人々は、その足で「カド」の生ジュースやくるみパン、「マリーナ」のナポリタンを食すことができるわけです。
三囲神社境内。鎮座する三越池袋店の    
ライオン。ここは三井家の守護社だそうです。

三柱鳥居



という感じで、爽やかフィールドワーク終了。本年も当店の迷走にお付き合いいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

お年賀にタオル地のハンカチーフを
 いただきましたよ。