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2017年12月25日月曜日

戯れた頁たち

1/7(日) 有楽町大江戸骨董市に出店
 
 ただいま逆光にて本年最後の展示会、植木智佳子個展『頁の戯れ』を開催しております。作品は古書の上に岩絵具で絵を描いたり、古布や写真を貼り付けたりした一種のオブジェというべきものです。が、本という形態が維持されている以上、視覚だけの認識では不十分で、手に取って頁を繰る触覚の参加を強制されます。目よりは手の方に負荷がかかるかもしれません。支持体になっている古書は植木さんが当店で買い上げてくれたものですが、こうして作品となった後もさらに売歩の形で利益を取られるのですから、作家にとっては二重に搾取される構図になっています。まさに重層的に複雑化した資本主義社会における美術業界の雛形を提示しようという当初の狙い通りです。というのはウソですが、とにかく連日多くの方にお運びいただいていて、古い紙を捲るカサッという音が時おり店内に響いています。
 製作に使われた本の多くは1970年代以前発行のもので、調べたわけではないのではっきりとは分かりませんが、現在流通している一般書籍の紙質とはずいぶん違うようです。ことに戦前に発行された本の紙は明確に質の良さが際立っているそうで、絵具の乗りがぜんぜん違うと植木さんが言っていました。古い本のおもしろさには玩物喪志以上のものがあって、視覚・触覚、もしかしたら嗅覚・聴覚・味覚さえも研ぎ澄ます力があるのかもしれません。29(金)まで。閉店時間を連日20時に延長しております。ぜひお運びください。
 そして展示前日まで地上の楽園、沼津まで交換会に行っておりまして、これは愉しい!と店主が思い込んでいるものがいくつか入荷しています。追ってご案内していきますので、しばしお待ちくださいませ。
 もはや退っ引きならないほどの年の瀬、お忙しいとは存じますが今週もどうぞよろしくお願い致します。

古い版の岩波少年文庫の『クリスマス・キャロル』
重しは花巻人形と伏見人形?          

「建築と社会 1961年10月号」

菊池寛の『貞操』

富士はやっぱり特別な山なのだと思わされます

疾走する車窓からの富士





 

2017年12月14日木曜日

音速の生徒たち

12/15(金) 『小江戸骨董市』展示設営のためお休みです
12/16(土)17(日) 『小江戸骨董市』うつわノート川越

12/20(水)21(木) 仕入のためお休みです

12/22(金) 『頁の戯れ』展示設営のためお休みです
12/23(土)〜29(金) 植木智佳子『頁の戯れ』

インスタグラムもぜひ→👃


 師が走るぐらいならば、我ら下っ端どもはマッハの速度で世界を駆け抜けなければならない。わけもなくそんな強迫観念に駆られる年末ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。改めてスケジュールを書き出してみると、展示会やその準備や仕入などで、まともに店を開けられる日数もほとんどないことが判明して驚きます。もっとも「いつだってまともではないけど?」と言われそうですが、そしたら「うむ」と笑って窓の外を見るぐらいの余裕は欲しいものです。
 直近では川越うつわノートさんでの『小江戸骨董市』。志村道具店トトトト質環の各氏と逆光の4店舗の出展です。会期2日とも4人在廊予定ということで、下手したら、むくつけき男たちが犇めき合ってるだけのイベントになりかねないので、年の瀬のお忙しい中ではありますが、ぜひ皆さま万障お繰り合わせの上お越しくださいませ。おそらく四者四様の涙まじりに仕入してきたものが並ぶはずです。
 それから植木智佳子さんの個展『頁の戯れ』ですね。おととしに森岡書店茅場町店、去年新川のマレビトと来て、今年は弊店にての開催となりました。岩絵具を使っているので日本画の範疇に入るのでしょうが、展示する店舗に合わせて支持体を変えているのが面白いところです。マレビトさんの時には古道具に絵が描かれました。今年は古書の頁を繰って絵具がのります。展示会場が徐々に西に進んでいるので、来年あたりは出光美術館などでの開催もあるかもしれません。青田買いは今のうちです。会期最終日の29日が逆光の本年最終営業日です。最後の最後までお付き合いください。


火消し道具の鳶口の柄の先にスワッグをぶら下げて、背景にはネウマ譜を
貼っています。クリスマスの飾り付けのつもりでしたが、あまりの
寒々しさに気づく人もいません。なかなか侘びた風情だと思ったのですが。








 

2017年11月29日水曜日

お知らせたち

12/7(木)〜9(土) 『点店終点
12/16(土)・17(日) 『小江戸骨董市』於 うつわノート川越店
12/23(土)〜29(金) 植木智佳子個展『頁の戯れ』


 ヒマを再結晶化させたかのような純度の高いヒマさ加減に翻弄される時もあれば、これ見よがしに気忙しい時もあるのが人生です。12月は端から見て、そこそこ忙しぶってるぐらいにスケジュールが埋まっていて有り難いことです。
 まず『点店終点』ですが、DMには「いよいよファイナル」などと銘打ってあって、どこかLAST GIGS的な何かが漂っているようないないような気配があります。音楽性の相違による解散なのか?と聞かれたりもしますが(しませんが)、実状は来年度のノー・コンセプト店舗移転のため、現行の形を一度終わらせましょうという話です。商店街の空き店舗前で、おニイさんがお立ち台に上がってメガホンで「いよいよ今日明日かぎりの激安価格」と呼び込みしてるアレがイメージに近いでしょうか。毎度のことながら、各店舗泣きながらの仕入にギリギリまで奔走します。
 そして『小江戸骨董市』。康芳夫と肩を並べるとさえ云われるあの辣腕プロモーター、うつわノートの松本武明氏が、いよいよ大江戸骨董市の対抗軸として掲げたプロジェクトのプロトタイプなのか?と聞かれたりもしますが(しませんが)、実際は師走の気が逸るなかで、古物でも見てひと息つきましょうというほのぼのとした企画です。しかし出店メンツは、当店にしてみれば「みな我よりえらく見ゆる日よ」と啄木魂に苛まれてしまうような人たち。見応えあると思います。会期は二日と短いのですが、散策を兼ねてぜひお運びください。川越在住歴のある逆光店主が、小江戸の名店をご案内いたします。と言っても「餃子の満洲」ぐらいしか知らないのですが。
 古物企画二連発、年も押し詰まる感のある中のお越しを心よりお待ちしております。
 さらにいよいよ年の瀬も押し迫ったところで、個展の追い打ちです。植木智佳子『頁の戯れ』。古書、岩絵具、文字、詩歌・・。小さな雑居ビルの一室で、静かなポエジーが炸裂しそうな予感がする展示会です。概要はまた追ってお知らせいたします。
 今年も各方面の皆さまのお蔭で、素晴らしい一年となりました。と、締めの挨拶にはまだ早いのですが、残りの2017年もどうぞよろしくお願申し上げます。


なにかしら愉しいものがある、と信じたい店内。

企画展示の多い昨今ですが、お時間を割いていただけたら
幸いです。                     




 

 
 







2017年11月12日日曜日

いまなぜ零細業者なのか

11/19(日)まで松井寛泰写真展『Labyrinth』開催中です。
11/25(土)・26(日) 『目黒セントラルマーケット』に出店します。
12/7(木)〜9(土) 『点店終点


点店、それは中年の心の中にいた青春の幻影・・。ふいに聞こえてくる城達也の声に耳を澄ましながら頁をめくれば、ブラー系エフェクトのように滲む紙面。それは涙のせい?それとも老眼?さて、皆さまにご愛顧をいただいておりました中央区古道具店合同買い廻り痛快企画『点店』も、いよいよ次回12月の開催を以てファイナルと銘打つこととなりました。そしてこの素敵なタイミングで、現在発売中の「オズマガジン12月号」の誌面にて点店のことをご紹介いただいております。しかも6頁も。誌面構成のこの破格ぶりに、思わず版元のスターツ出版の会社概要をサイトでチェックしてみましたが、特に何も分からずじまい。
 4店舗が集まってのインタビューが載っているのですが、これが90年代初め頃に結成されたインディーズバンドの解散記事みたいな趣きがあって、懐かしいような微笑ましいような気持ちになります(ならないかもしれません)。本誌ではボツになりましたが、マレビト前の橋の上で雨のそぼ降る中を撮った写真が、エピック・ソニー時代のエレファントカシマシのアルバムジャケットのようで、割といいと思いました。時代の一風景が雨と涙と川の流れのせいで、彼方に霞んでいくのでした。
 そしていま店舗では、松井寛泰写真展『Labyrinth』を開催しております。物体が放つ光に対してレンズやカメラを使って光学的操作を行い、それを感光剤に照射させてから、現像・焼き付け等で紙等の支持体に像を定着させるのが、写真の定義です。字義どおりに真を写すと解釈すると語弊があって、本来は光を結像させる光画です。フォトグラフの光画性をいっそう強調するために、工程の手数をやけに多くせざるを得ないその拘りは、むしろ滑稽でさえあるのですが、花鳥風月好きの日本人には、その反自然性を構築するための滑稽さはよく理解するところではないようです。
 セザンヌ、ジョイス、ゴダール、吉増剛造、川久保玲、坂田和實・・そのジャンルが持つ制度性を明確に際立たせながら仕事する人たちに、松井寛泰も連なるひとりのように思えます。19(日)までです。ぜひご高覧くださいませ。


今、万感の思いを込めて・・みたいなノリで。



外光の射し込み方でかなり見え方が違います。ぜひ何度も
お運びを。                     


詩人の手みやげです。心憎いですね。



2017年11月6日月曜日

リットゥ

11/11(土)〜19(日) 松井寛泰写真展『Labyrinth
9(木)・10(金)は搬入・陳列のためお休みです。

11/25(土)・26(日) 『目黒セントラルマーケット』に出店

12/7(木)・8(金)・9(土) 『点店終点』


 止まない雨はない。ということで、日曜はひと月ぶりの行商でした。灰色の空から落ちてくる雨が、まるで露店商たちの涙のように見えた10月を何とかやり過ごして、霜月一週目の日曜日は恩寵のような快晴。ただ前日までの暖かな空気が一変して、ジッとしてると底冷えしてくるような寒さでした。あまりの寒さに3時を回る頃には帰り支度を始めて早々に撤収、浅草のフルーツパーラーゴトーへ。店の前は結構な人だかりで、この寒いのにみんなよくパフェなんか食べる気になるな、と呆れながら4種の柿のパフェ(1,280円)というのをいただきました。ほんとは洋梨のパフェが目当てでしたが、用意してた分が切れてしまい追熟中とのこと。一両日中には再開するそうなので、お出かけの際には問い合わせを入れるといいかもしれません。
 しかし本当に言いたいのはそんなことではなく、松井寛泰展の宣伝をしないといけないのです。日本ではオリジナルプリントで写真を見るという習慣が根づいていませんが、松井さんの職人肌が遺憾なく発揮されたゼラチンシルバーによるプリントの美しさを体感するには、実物を見ないでは始まりません。職人気質ということでは、先日展示会を催した小野寺公夫さんとも共通するところがあって、図らずも「まだ見ぬ職人列伝」のような展示が続くことになります。
 写真は複製可能なペラペラの1枚の紙ではなく、もっと絵画や彫刻のような物感を携えたモノであることが、オリジナルを目にすると分かると思います。松井寛泰の写真を見たあとは、浅草に出て洋梨のパフェを食べるというのもいいでしょう。皆さまのお越しをお待ちしております。

善光寺参りと同じく、一生に一度は見ておかないと
いけない写真です。              

富有柿と太秋と東京御所と東京紅を使用。富有柿以外は
区別がつかず。                  





2017年11月1日水曜日

おしらせばかりがもろもろと

11/5(日) 有楽町大江戸骨董市
11/11(土)〜19(日) 松井寛泰写真展『Labyrinth
11/25(土)・26(日) 目黒セントラルマーケット
12/7(木)〜9(土) 『点店終点』

インスタグラムで商品紹介をしております→👃

盛岡の先鋭的なセレクトショップRiZM CLOSETさんにて小野寺公夫漆器展が開催されます。当店からだと東京駅まで出て、新幹線はやぶさで2時間13分ほど。お店は盛岡駅からほど近い場所。ぜひ。11/3(金)〜12(日)


 年末進行、と声に出してみると、零細の古物商あたりでもいっちょまえに浮世の動きに足並みを揃えているように聞こえるものです。ふだんボンヤリしてる分、少しばかり仕事が立て込むと異常に忙しく感じてしまうのですが、落ち着いてみれば、その実たいしたことはありません。とはいえ落ち着いてもいられないのが、上のお知らせにも書いた松井寛泰さんの写真展です。現在アメリカのギャラリーと契約していて、日本での活動がほとんどなかったので、今のところさほどその名は知られていないようです。写真表現の枠組みを意識させる創作はドメスティックなシーンでは捉え切れないものがあり、おそらく数年のちに逆輸入の形で名前を聞くことになるタイプの作家だと思います。マツイヒロヤスと読みます。ぜひ覚えておいてください。以前の当ブログでの紹介記事です。→👀 ご参考までに。Facebook等で追って情報を更新してまいります。
 仕入や展示の宣伝行脚等でウロウロしていて、開店時間が不規則になりがちです。お問い合せなどございましたら、メールやインスタグラムのDMでお知らせくださいませ。では、11月もどうぞよろしくお願い致します。


展示会目白押しの年末年始。向き不向きを考えずに、すべてに足を
運んでみると、新たな発見があるかもしれません。       


 

2017年10月23日月曜日

馬車馬

10/29(日) 有楽町大江戸骨董市
11/5(日) 有楽町大江戸骨董市
11/11(土)〜19(日) 松井寛泰写真展『Labyrinth』


 展示会や仕入れ、催事の手伝いなどでここ2週間ほどは忙しくしておりました。というか、忙しぶっていました。急な気温の変化で体調を崩しながらの日々だったので、苛酷な試練にでも立ち向かっているような気分がして、これは己の度量が一回り大きくなる兆しかとも思ったのですが、錯覚だったようです。
 さて、小野寺公夫さんの漆器の展示会には、会期中たくさんの方にお運びお買い上げをいただきました。本当にありがとうございます。いにしえの職人気質全開の、書で云うところの楷書体の作行きなので、生活工芸全盛の世には少し重過ぎるだろうか?と思うこともありましたが、それも杞憂で、いいものは売る側の思惑を越えるようです。人気はやっぱり椀類です。漆に潤滑の混ぜものをしない小野寺さんの漆器は、塗り肌に光の粒が定着しているように見えます。それでよく言われるように、ふんわりした印象を与えるのかもしれません。何かの折に見かける機会があったら、よく網膜に焼き付けておいてください。
 11月にも展示会を一本入れています。写真家というのか写真を媒体とした現代美術家というのか、松井寛泰という斬新さと職人肌が共存した人の展示です。写真という表現は見方がよく分からないうえに、ある見方を強制されてしまうような気がして、限られた人しか展示に足を運ばないイメージがあるかもしれません。なので、そこを覆してみたいという仄かな野心もあるのですが、大風呂敷を広げると後で泣きを見るので、今のところ煽りはこれぐらいにしておきます。追って展示会情報を更新していきます。
 それでは今週もどうぞよろしくお願い致します。



 

2017年10月11日水曜日

工人たち

小野寺公夫の仕事「漆の声、木の文法」10(火)〜13(金)は通常19時までの営業を
20時まで延長いたします。

 ただいま当店では、宮城県鳴子のレジェンド、小野寺公夫さんの作った漆器の展示会を開催中です。キミオ・オノデラといえば、「勇壮な塗りの力を持った漆器を通し、世界と結びついているという、我々の日常的感覚に隠された深淵を暴いた職人」として、国際的に評価されて然るべきだと思うのですが、なかなか物作りには厳しいこの国であります。使う器として細部まで配慮され、堅牢さと美しさのために下地から本塗りまで一切の妥協を許さない、昔気質の職人魂を発揮する工人たちの最後の末裔。そんな漆工は東北では鳴子の小野寺さんと、あとは会津にもうひとりだけです。フレデリック・ワイズマンが密着して映画化してくれたら、初日の舞台挨拶には駆けつけなければいけません。と、”失われつつあるもの”煽りをしてしまいましたが、今も現役で作り続け、それどころか新作の構想までしてるぐらいですから、小野寺さんもまだまだ枯れるつもりはないようです。
 楷書体で書かれた野太い器といった感じの小野寺さんの作品は、今の工芸シーンには退屈に映るかもしれません。しかし修練を積まずに草書に走るのは、何のトレーニングもしないでUFCのオクタゴンに上がるのと同じでしょう。奇抜な動きは体幹を鍛えてこそです。フルーツパーラーゴトーのパフェも、コーンフレークやスポンジケーキで上げ底したりせず、愚直なまでに果物とアイスクリームのみの組み合わせによる純度の高さを貫いています。そろそろ洋梨のパフェが出る頃でしょうか。去年は食べ損ねているので、今年こそは何としても・・。
 というわけで小野寺公夫展、皆さまのお越しを心よりお待ちしております!

豪快な大椀としゃもじ。





 

2017年10月2日月曜日

葡萄、漆、人生

10/5(木)・6(金) 展示会の搬入・陳列作業のためお休み
10/7(土)〜15(日) 小野寺公夫の仕事『漆の声、木の文法』

 売上げの多少の如何を問わず、パフェを食べることをあらかじめ宿命づけられた者たちが集う場所、大江戸骨董市。日曜日、素晴らしき秋晴れの下、有楽町まで行商に出かけてまいりました。当店にとっては、8月第1週目以来の有楽町です。久しぶりの出店で、大切なことをいろいろと忘れている気がしたのですが、もう何を忘れているのかさえ思い出せないので、そんな憂い事は潰れた銀杏の匂いが混じる秋の風ともに空へと放り投げてしまいました。たくさんの方にお運びお買い上げいただき感謝申し上げます。
 というわけで、比較的意気揚々と浅草フルーツパーラーゴトーへ。夏の盛りに出向いたときには、2回ほど完売による早じまいに遭ってしまい、こちらも久しぶりです。この時期はぶどうのパフェ。初物七十五日ということで、旬のものを食べて長生きでもしようという腹づもりですが、浮世の厳しさに身を窶してるくせに、このうえ長く生きてどうするのかというペシミズムも頭をよぎります。しかしテーブルへと運ばれる葡萄たちの輝きを目にすれば、そんな思いは瞬殺されます。
 注文したのは『ルビーロマンの入った14種のぶどうのパフェ』税込1,680円。三段に構成され、各位置に的確にそれぞれのぶどうが配置されています。一段目を見ても、ナイアガラ、ロザリオ・ビアンコ、クイーンニーナ、巨峰、甲斐路、スチューベンと、巨峰以外は人生で一度も聞いたことのない品種ばかり。今回はカウンターに座ったので、パフェの出来上がるまでがよく見えました。完璧な分業体制によってパフェが徐々に構築されていく厨房の様子は、まるでルネサンス期の職人の工房のようでした(見たことありませんが)。

 三段といえば、10/7(土)より当店にて開催される小野寺さんの漆器は、いわゆる本堅地と呼ばれる輪島流儀の下地による堅牢さを備えています。下地とは漆を塗る前の木地を丈夫で平滑にするための作業で、この下地付けを三回行うのを三辺地と言います。
 と、パフェの話を無理やり自分の店の展示会に結びつけたりして、浅ましい商魂が見えすいておりますが、漆器(特にお椀)の丈夫さは下地にかかっているので、そのあたりを気にしてみると、漆器の見方も少し変わってきて楽しくなるかもしれません。塗り立てのお椀なんかは、どれもピカピカしてて同じに見えそうですが、下地付けに手間がかかっている器は、張り詰めたような力感が漲っています。漆のことで気になっていることがあったら、満を持して来京される小野寺さんにぜひ尋ねてみてください。

命の塊のような、まぶしいほどの煌めき。


写りが悪くてすみません。去年買って1年〜1年半ほど
使っている小野寺さんのお椀です。使い込むうちに茜色に
変わっていくと言いますが、当初の色をもはや覚えていません。
送られてくる新しいものを見れば、その変化に驚くでしょうか。


骨董市ですだちをいただきました。人生の酸いも甘いも
噛み分けた同業氏からです。            

 

2017年9月29日金曜日

漆を売るしかない

10/1(日) 有楽町大江戸骨董市に出店
10/5(木)・6(金) 展示会搬入陳列のためお休み
10/7(土)〜15(日) 小野寺公夫の仕事『漆の声、木の文法』

 残暑の苦しみもなく、あっさり秋へと移行した2017年夏。ここ数日は空気の色も冴えてきて、朝晩などは少しばかり肌寒く、いよいよ漆器の季節到来といった感じです。と、前振りがわざとらしくて恐縮ですが、今年も縁あって小野寺公夫さんの漆の仕事を見ていただく機会を設けることとなりました。こちらとしては、「伝説の漆職人の全貌が遂に!」とか「工芸界のまだ見ぬ強豪襲来!」とか「塗りにおけるシェイクスピアの恐怖」などといくらでも煽り文句は思いつくのですが、小野寺さんの質実で素朴な漆器が、そんなインチキな売り口上を撥ね飛ばしてしまいます。とにかく実物を見て触わるに如くはないと思っております。10月7(土)・8(火)・9(月・祝)には小野寺さんご本人もいらっしゃるので、こちらも見て触って、というわけにはいかなそうですが、ぜひいろいろとお話しをなさってください。
 次の日曜日10/1は久しぶりの大江戸骨董市出店ですので、こちらもよろしくお願い致します。夏の厳しすぎる商戦を満身創痍でかいくぐった古物商の起死回生の行商ということで、風冴える秋晴れの下、心の扉を叩く物を見つけに来てください。お待ちしております!
                                     




  


2017年9月21日木曜日

漆の声、木の文法

 昨年の10月に当店で開催して、たくさんの方にお運びお買い上げいただいた鳴子の漆工・小野寺公夫さんの展示会を今年も10/7(土)〜15(日)に行なうこととなりました。Facebookでイベントページを作ったのでぜひご覧ください→
 齢70を過ぎてそろそろ引退も視野に、という頃合いで催した前回の個展が思いもかけない形で小野寺さんの職人魂に火をつけたようで、地元にいては接点のない層の人々が、自分の作った漆器を真剣に選ぶのを目の当たりにして、なかなか枯淡の域になんか達していられないと思ったのかもしれません。まさに漆器業界のランディ・クートゥア、工芸世界のマノエル・ド・オリヴェイラといった趣きです。もっとも小野寺さんは職人ですから、毎年の新作で人の耳目を集めるというのではありません。並ぶ器はオールタイムベストなので、顔ぶれは同じと云えば同じなのですが、それでも質実堅牢な朱塗りの飯椀がずらりと並ぶ様を見れば、志ん朝の抜け雀が何度聞いても面白いように、同じものを持っているのにまた欲しくなるかもしれません。
 と言いつつ、新しい作品にも挑戦しているのが小野寺さんの若々しいところで、今年鳴子に伺った時には、二月堂机や黒塗りのえらくカッコいい盆を見せてもらいました。このあたりの古典と創作の絶妙な加減も、楽しみにしていただきたく思います。7(土)・8(日)・9(月・祝)には小野寺さんが在店されます。東京の喧噪が苦手で来京の依頼にはなかなか首を縦には振らない人ですが、昨年の状況を見れば来ないわけにいきません。この機会に、半ば監禁状態にされた小野寺さんとぜひお話しをしてください。前回品物をお買い上げくださった方は、それをお持ちいただいて、ふだんどんなふうに使っているかを教えていただけると、小野寺さんもきっと東京にいることを忘れて話が止まらなくなることでしょう。
 というわけで、どうぞ皆さま万障お繰り合わせの上お運びくださいませ。

今回のDMです。削ぎ落とされたデザインと漆器の豊穣なイメージの
対比が美しい仕上がりです。                 
 



2017年9月4日月曜日

楽園よりも珍妙な

インスタグラムで商品紹介をしております。どうぞご覧ください→👃


 恩寵が降って湧いたような爽やかな日曜日。しかも店は定休。どこぞで何をしさらそかー、と飛び起きて銀座に行ってきました。まずはエルメスに今季秋冬の新作をチェックしに。というのは当然ウソで、ここの10階で定期的に上映している映画を観に行ったのでした。折々にテーマを定めてそれをタダで(!)見せてくれるのです。エルメスという企業は、この無料サービスに対して従業員4人を配置していて、そのうえ入場時にイタリア製のキャンディーまで配っておりました。ビッグメゾンの、労働分配率を一切眼中に入れない贅沢さに恐縮しながら、最前列に着席。プログラムはマイケル・パウエルの『血を吸うカメラ』という素敵なセレクトです。学者の父親に幼少時に心理実験の対象とされていたトラウマから、殺人を犯すようになった男の話。封切時は酷評に晒されて、以降この監督はまともに映画を撮らせてもらえなくなったという呪われた作品です。ベル&ハウエルの手持ちカメラの三脚の一部が仕込みのナイフになっていて、その刃先を女性にちらつかせて恐怖におののく顔をフィルムに収めるという・・よほど演出が冴えてないと、かなり変な映画になりそうですが、やはり当時はキワモノ扱いだったようです。死後に再評価されて、コッポラ、スコセッシ、ジョージ・A・ロメロ等が影響を受けたといいます。
 そんな呪われ気分を仄かに背負いながら、銀座ウエストでお昼ご飯。トースト、スープ、ケーキ、コーヒー3杯(おかわり自由)という豪気さで呪いを浄めてから、コーヒーっ腹を揺らしながら、資生堂ギャラリーにて開催中の『かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎』へ。エルメス→ウエスト→資生堂なんて、札所巡りみたいな銀座漫遊ぶりですが、意外とこういう定番の組み合わせは今までしてませんでした。それにしても凄まじい人の波。この100分の1でも八丁堀に流れてもらうための動線設計をどうしたらいいのか、星野リゾートの社長になったつもりでシュミレートしてみたのですが、何も思いつかず。
 で、資生堂の展示ですが、紙、石器、土器片、ガラス瓶などを配することで、古代の風景が銀座の地に現れてくるところに感じ入って、結構長い時間見てました。見てるうちにどこかしら旅に出たい衝動に駆られて、交通費の計算などを始めてしまうぐらいでした。
 その後も銀座を多いに闊歩する予定でしたが、コズミックワンダー展に思いのほか魅せられて時間がなくなり、ジャスティン・ガトリンほどの速度でヒューマントラストシネマ有楽町へと駆け付けました。ジム・ジャームッシュの『パターソン』を観なければならないのです。時おりは詩人たちが出入りしたりもする店を商っている以上、必見の映画として以前からチェックを入れてました。とかいって、これで来る詩人の誰ひとりも見てないとか言ったら、片っ端から大型の磨製石斧でメッタ打ちにしてやりたい・・。そんな健やかな暴力性を誘発する毒をジャームッシュはまだ秘めていました。観たら詩の本を手元に置いておきたくなるかもしれません。その時こそ、ぜひ当店へとお運びください。では、今月・今週もどうぞよろしくお願い致します。


























2017年8月29日火曜日

二度目と一度目

 某日。某作家の展示案内状の作成を某氏に依頼しており、その商品撮影のため都内某所まで。
 と、意味も無く某某言ってますが、遡ること二週間ほど前、弊店にて10月開催の小野寺公夫展のDM作成を鎌田充浩氏にお願いしておりまして、そこに載せる品物の写真を撮ってもらいに、スタジオ代わりにお借りした港区のアパレルショップへと出向いたのでした。しかもタクシーで。ゴトーのパフェに換算するとおよそ2.5杯分の料金・・。しかしこれも必要経費と割り切って、デカいお盆や机をかかえて閑静な住宅の並ぶ一画へと乗りつけたのでありました。人は、タクシーで港区へ行くというだけで業界人になった気分になるものです。それが何の業界なのかは判然としないまま・・。
 撮影はこの度も高橋マナミさん。鎌田さんとのコンビは、テリー・ゴディ&スティーブ・ウィリアムス以上に盤石の世界最強タッグぶり。こちらとしてはもう、リーマン・ブラザース破綻以前のクライアントになったつもりで、悠々と腰掛けてドンペリ(ゴールド)でも空けていればいいだけです。ただ、小野寺さんの漆器がそういう軽薄な煌びやかさとは無縁なので、一応は威儀を正して床に正座して白湯を啜っていました(気持ちの上で)。
 インスタグラムで写真をアップするのとはワケが違って、ブツ撮りはいかにも現場仕事という感じです。肉体を駆使して、品物の写りを最善にするための膳立てに立ち回る二人の姿は、まさしくプロフェッショナル。リアル日本放送協会。DMは来月上旬に出来上がる予定です。見かけたらぜひ手に取って、太陽にかざしてみてください。
 

トルソー、積み上げられた紙箱、打ちっ放しの階段に
立てかけられたアートブックなど・・八丁堀では見かける
ことのない空間。                
壁ですね。安部公房的な。


準備にこそ手間をかけます。右側には番手の大きさそうな
生地がたくさん。                  



 そして十日ほど前には業者の交換会へ。こちらは初参戦。緊張とも焦燥とも違うこの不思議な名づけえぬ感覚はなんなのか・・、などと考えながら会場に向かっていたのですが、朝ご飯を食べ損ねたための空腹だと気付きました。お昼はお弁当が出るそうなので、中身はどんなのだろうと思うとドキドキしてきます。しかしこれは本当は、さまざまな不安の対象をお弁当へと代理させた一種の防衛機制ではないのかと考えると、またいっそうドキドキしてきました。という感じで、なんだかワケの分からないまま終了。店に戻ったとたん、椅子に沈み込むように居眠りしてしまったあたり、やっぱり気が張っていたようです。少しばかり楽しいものが買えましたので、ぜひ見にいらしてください。では、残り少ない8月もどうぞよろしくお願い致します。

これがこの日のお弁当です。栗、銀杏、穴子、海老など
美味しいものオールスターが折り詰めになってました。  
最近の店内風景。古手の厨子甕が入りました。
探していた方、この機会をお見逃しなく!

 

2017年8月15日火曜日

日和下駄びより

 日曜日、午前中に墓参りを済ませたあとに、特にあてもなく上野の山まで足を延ばしてみました。京成上野駅から地上に出れば、横断歩道の向うには「あんみつ みはし」があるので、氷白玉あずきソフトクリームのせでも軽く食べていこうかと思いましたが、店外まで伸びる長蛇の列に恐れをなして諦めました。しかし人間というのは、一度脳内が甘味モードに設定されてしまうと、何かしら冷たくて甘いものを摂取しないと設定解除されない生き物です。そういえば黒門町のどら焼きの「うさぎや」がカフェを始めたのを思い出して、そちらに行ってみると、タイミングよく空席がありました。まさにステキなタイミングこそが、この世で一番肝心だと思わされた瞬間でした。かき氷を特盛つゆだくで注文するつもりでしたが、店内冷房の効きすぎによって餡みつに変更。さすがに旨いものでした。これで池之端の藪蕎麦との最強コンボが完成なのか?と思っていたら、薮は去年閉店していたんですね。無念です。

うさ餡みつ 870円。

 それから不忍池の方に抜けると、蓮の葉の緑と花の点々が水面を向うまで覆っているのが見えてきました。この辺りに来ると、人は誰もが永井荷風と宮本浩次に乗り移られたようになるものです。弁天堂に近づくにしたがい、焼いた粉ものにソースを塗りたくる匂いが体を包みます。上野と浅草はこの匂いがします。同じ銀座線沿線でも、表参道や溜池山王からはこの匂いはしません。この匂いを嗅ぐだけで、パンダ舎前の行列、懸垂式モノレール、花やしき、観音温泉などが矢継ぎ早に思い出されます。そんなプルースト的命題と戯れながら、観音堂に向かう急階段を上って噴水広場へと出ると、フェスティバル的なものが開催されていました。パキスタンと日本のフレンドシップを顕彰するお祭りのようで、歌や踊りや肉やポテトなどでかなりの盛り上がりを見せています。にわかには入り込めないぐらいに人が溢れているので、迂回しつつ東京国立博物館に向かいました。常設展示を見て勉強してるんだぞ!と自分に思い込ませることが、たまに必要なのです。



広場のフェスティバル。カメラに撮ると、場末の運動会
みたいですが、実際は大賑わいを見せていました。  

竹の子族っぽいパフォーマンス。結構盛り上がっていた
はずですが、写真ではアンリ・ルソーの絵のように哀しげに
写っています。                  

 いつものように考古展示室から見始めました。あまり物欲しそうな顔をしてると係の人に怪しまれそうなので、何食わぬ風を装っていたのですが、それがかえって不自然で、もしかしたら盗品ブローカーみたいな顔つきになっていたかもしれません。以下、欲しいものを適当に撮り散らかしました。

女子埴輪。髷がふっくらしていて、束ねた髪の感じが
よく出てます。                 

人型が張り付いてます。古代ペルー、モチェあたりの
土器みたいです。こちらの方がずっと古いのですが。

漏斗口になっていて機能的な造形とかっこいい線刻。

北海道室蘭出土、続縄文時代の鯨骨製の鋤だそうです。

銅製の骨臓器。奈良時代、大阪出土。

これは東洋館の中国コーナーにて。
元時代の綴織。

これも。

 というわけで、閉館時間いっぱいまでゴダールの「はなればなれに」みたいに駆け足で館内を見て廻りました。広場ではまだお祭りが終わっていなかったので、せっかくだからパキスタンっぽいもので小腹を満たそうと、列のできてない屋台で適当なものを買ってみました。夏休みも終わりです。今月後半もどうぞよろしくお願い致します。

うねうねとした生き物みたいですが、ロングポテトです。
おそらくパキスタンとは無関係でしょう。森永の
ポテロングの2.5倍ぐらいの長さはありそうです。
その名に恥じぬ長さ。明太マヨソースをかけて
もらいました。美味しいと言っていいと思います。







 

2017年8月12日土曜日

漆で顔を洗って出直す

インスタグラムもやってます→👃 

 千葉県佐倉の国立歴史民俗博物館で開催中の『URUSHIふしぎ物語 -人と漆の12000年史-』を見てきました。天然の塗料や接着剤としての漆の効用が、人間の営為のなかでどのような文化を形づくってきたかに焦点を当てた企画です。結果としての名品を鑑賞の立場で見る展示とは違って、それらを産み出した歴史・過程を出土物によって知ることができる貴重な機会だと思います。考古的見地に立った陳列はかなり見応えがありました。手に入らないと分かっていながらも、欲しいものチェック機能が自動的に作動してしまい、とても疲れました。NHKの日曜美術館で特集したからなのか、地味な企画だから空いてるだろうと高をくくっていたのは間違いでした。館内のレストランにも行列ができていて入れずじまい、古代米ハヤシライスを食べ損ねました。
 会場に入ってすぐ右手では、漆掻きの光景を上映しています。職人が専用のカンナでウルシの木にキズを付けて、そこから滲み出す樹液をヘラで掻き採るのですが、わずかな数滴をすくってタカッポと呼ばれる漆桶に集めます。腕前や時期によりけりですが、1日の採取量は250〜500グラム程度のようです。希少性で言えば、神保町眞踏珈琲店の水出しコーヒー以上ですね。そうした材料としての貴重さが、漆器に対する畏敬と敬遠を生み出しているのかもしれません。また産地や時代について、陶磁器ほどには確定できないことも、漆への謎の思いを深めている原因と言えそうです。どうあれ、人は漆に利便性と美的価値を見出してきて、それは連綿と今に至るまで続いています。
 そうした漆の効用を体現する器を今まさに作っている人物として、鳴子の小野寺公夫を挙げて、去年に続き10月に当店で展示会をいたします。と、相当まわりくどい宣伝になってしまい恐縮です。歴博の展示で通時的に見たあとで、小野寺さんの漆器を共時的な視点で見てみると、よく分からなかった漆に対して仄かな愛が生まれてくるかもしれません。


博物館入口には掻いたあとのウルシの木が。
その年で漆を採り尽くして切ってしまう採取方法を
殺し掻き、数年にまたがって採るやり方を養生掻き
と言います。日本では今は殺し掻きが主流だそうです。

博物館へ至る道。
緑がモサモサしてます。

モサモサ。

モサモサ。

モサ。

かなり唐突に猫に遭遇。触らせてくれました。