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2017年8月29日火曜日

二度目と一度目

 某日。某作家の展示案内状の作成を某氏に依頼しており、その商品撮影のため都内某所まで。
 と、意味も無く某某言ってますが、遡ること二週間ほど前、弊店にて10月開催の小野寺公夫展のDM作成を鎌田充浩氏にお願いしておりまして、そこに載せる品物の写真を撮ってもらいに、スタジオ代わりにお借りした港区のアパレルショップへと出向いたのでした。しかもタクシーで。ゴトーのパフェに換算するとおよそ2.5杯分の料金・・。しかしこれも必要経費と割り切って、デカいお盆や机をかかえて閑静な住宅の並ぶ一画へと乗りつけたのでありました。人は、タクシーで港区へ行くというだけで業界人になった気分になるものです。それが何の業界なのかは判然としないまま・・。
 撮影はこの度も高橋マナミさん。鎌田さんとのコンビは、テリー・ゴディ&スティーブ・ウィリアムス以上に盤石の世界最強タッグぶり。こちらとしてはもう、リーマン・ブラザース破綻以前のクライアントになったつもりで、悠々と腰掛けてドンペリ(ゴールド)でも空けていればいいだけです。ただ、小野寺さんの漆器がそういう軽薄な煌びやかさとは無縁なので、一応は威儀を正して床に正座して白湯を啜っていました(気持ちの上で)。
 インスタグラムで写真をアップするのとはワケが違って、ブツ撮りはいかにも現場仕事という感じです。肉体を駆使して、品物の写りを最善にするための膳立てに立ち回る二人の姿は、まさしくプロフェッショナル。リアル日本放送協会。DMは来月上旬に出来上がる予定です。見かけたらぜひ手に取って、太陽にかざしてみてください。
 

トルソー、積み上げられた紙箱、打ちっ放しの階段に
立てかけられたアートブックなど・・八丁堀では見かける
ことのない空間。                
壁ですね。安部公房的な。


準備にこそ手間をかけます。右側には番手の大きさそうな
生地がたくさん。                  



 そして十日ほど前には業者の交換会へ。こちらは初参戦。緊張とも焦燥とも違うこの不思議な名づけえぬ感覚はなんなのか・・、などと考えながら会場に向かっていたのですが、朝ご飯を食べ損ねたための空腹だと気付きました。お昼はお弁当が出るそうなので、中身はどんなのだろうと思うとドキドキしてきます。しかしこれは本当は、さまざまな不安の対象をお弁当へと代理させた一種の防衛機制ではないのかと考えると、またいっそうドキドキしてきました。という感じで、なんだかワケの分からないまま終了。店に戻ったとたん、椅子に沈み込むように居眠りしてしまったあたり、やっぱり気が張っていたようです。少しばかり楽しいものが買えましたので、ぜひ見にいらしてください。では、残り少ない8月もどうぞよろしくお願い致します。

これがこの日のお弁当です。栗、銀杏、穴子、海老など
美味しいものオールスターが折り詰めになってました。  
最近の店内風景。古手の厨子甕が入りました。
探していた方、この機会をお見逃しなく!

 

2017年8月15日火曜日

日和下駄びより

 日曜日、午前中に墓参りを済ませたあとに、特にあてもなく上野の山まで足を延ばしてみました。京成上野駅から地上に出れば、横断歩道の向うには「あんみつ みはし」があるので、氷白玉あずきソフトクリームのせでも軽く食べていこうかと思いましたが、店外まで伸びる長蛇の列に恐れをなして諦めました。しかし人間というのは、一度脳内が甘味モードに設定されてしまうと、何かしら冷たくて甘いものを摂取しないと設定解除されない生き物です。そういえば黒門町のどら焼きの「うさぎや」がカフェを始めたのを思い出して、そちらに行ってみると、タイミングよく空席がありました。まさにステキなタイミングこそが、この世で一番肝心だと思わされた瞬間でした。かき氷を特盛つゆだくで注文するつもりでしたが、店内冷房の効きすぎによって餡みつに変更。さすがに旨いものでした。これで池之端の藪蕎麦との最強コンボが完成なのか?と思っていたら、薮は去年閉店していたんですね。無念です。

うさ餡みつ 870円。

 それから不忍池の方に抜けると、蓮の葉の緑と花の点々が水面を向うまで覆っているのが見えてきました。この辺りに来ると、人は誰もが永井荷風と宮本浩次に乗り移られたようになるものです。弁天堂に近づくにしたがい、焼いた粉ものにソースを塗りたくる匂いが体を包みます。上野と浅草はこの匂いがします。同じ銀座線沿線でも、表参道や溜池山王からはこの匂いはしません。この匂いを嗅ぐだけで、パンダ舎前の行列、懸垂式モノレール、花やしき、観音温泉などが矢継ぎ早に思い出されます。そんなプルースト的命題と戯れながら、観音堂に向かう急階段を上って噴水広場へと出ると、フェスティバル的なものが開催されていました。パキスタンと日本のフレンドシップを顕彰するお祭りのようで、歌や踊りや肉やポテトなどでかなりの盛り上がりを見せています。にわかには入り込めないぐらいに人が溢れているので、迂回しつつ東京国立博物館に向かいました。常設展示を見て勉強してるんだぞ!と自分に思い込ませることが、たまに必要なのです。



広場のフェスティバル。カメラに撮ると、場末の運動会
みたいですが、実際は大賑わいを見せていました。  

竹の子族っぽいパフォーマンス。結構盛り上がっていた
はずですが、写真ではアンリ・ルソーの絵のように哀しげに
写っています。                  

 いつものように考古展示室から見始めました。あまり物欲しそうな顔をしてると係の人に怪しまれそうなので、何食わぬ風を装っていたのですが、それがかえって不自然で、もしかしたら盗品ブローカーみたいな顔つきになっていたかもしれません。以下、欲しいものを適当に撮り散らかしました。

女子埴輪。髷がふっくらしていて、束ねた髪の感じが
よく出てます。                 

人型が張り付いてます。古代ペルー、モチェあたりの
土器みたいです。こちらの方がずっと古いのですが。

漏斗口になっていて機能的な造形とかっこいい線刻。

北海道室蘭出土、続縄文時代の鯨骨製の鋤だそうです。

銅製の骨臓器。奈良時代、大阪出土。

これは東洋館の中国コーナーにて。
元時代の綴織。

これも。

 というわけで、閉館時間いっぱいまでゴダールの「はなればなれに」みたいに駆け足で館内を見て廻りました。広場ではまだお祭りが終わっていなかったので、せっかくだからパキスタンっぽいもので小腹を満たそうと、列のできてない屋台で適当なものを買ってみました。夏休みも終わりです。今月後半もどうぞよろしくお願い致します。

うねうねとした生き物みたいですが、ロングポテトです。
おそらくパキスタンとは無関係でしょう。森永の
ポテロングの2.5倍ぐらいの長さはありそうです。
その名に恥じぬ長さ。明太マヨソースをかけて
もらいました。美味しいと言っていいと思います。







 

2017年8月12日土曜日

漆で顔を洗って出直す

インスタグラムもやってます→👃 

 千葉県佐倉の国立歴史民俗博物館で開催中の『URUSHIふしぎ物語 -人と漆の12000年史-』を見てきました。天然の塗料や接着剤としての漆の効用が、人間の営為のなかでどのような文化を形づくってきたかに焦点を当てた企画です。結果としての名品を鑑賞の立場で見る展示とは違って、それらを産み出した歴史・過程を出土物によって知ることができる貴重な機会だと思います。考古的見地に立った陳列はかなり見応えがありました。手に入らないと分かっていながらも、欲しいものチェック機能が自動的に作動してしまい、とても疲れました。NHKの日曜美術館で特集したからなのか、地味な企画だから空いてるだろうと高をくくっていたのは間違いでした。館内のレストランにも行列ができていて入れずじまい、古代米ハヤシライスを食べ損ねました。
 会場に入ってすぐ右手では、漆掻きの光景を上映しています。職人が専用のカンナでウルシの木にキズを付けて、そこから滲み出す樹液をヘラで掻き採るのですが、わずかな数滴をすくってタカッポと呼ばれる漆桶に集めます。腕前や時期によりけりですが、1日の採取量は250〜500グラム程度のようです。希少性で言えば、神保町眞踏珈琲店の水出しコーヒー以上ですね。そうした材料としての貴重さが、漆器に対する畏敬と敬遠を生み出しているのかもしれません。また産地や時代について、陶磁器ほどには確定できないことも、漆への謎の思いを深めている原因と言えそうです。どうあれ、人は漆に利便性と美的価値を見出してきて、それは連綿と今に至るまで続いています。
 そうした漆の効用を体現する器を今まさに作っている人物として、鳴子の小野寺公夫を挙げて、去年に続き10月に当店で展示会をいたします。と、相当まわりくどい宣伝になってしまい恐縮です。歴博の展示で通時的に見たあとで、小野寺さんの漆器を共時的な視点で見てみると、よく分からなかった漆に対して仄かな愛が生まれてくるかもしれません。


博物館入口には掻いたあとのウルシの木が。
その年で漆を採り尽くして切ってしまう採取方法を
殺し掻き、数年にまたがって採るやり方を養生掻き
と言います。日本では今は殺し掻きが主流だそうです。

博物館へ至る道。
緑がモサモサしてます。

モサモサ。

モサモサ。

モサ。

かなり唐突に猫に遭遇。触らせてくれました。

2017年8月9日水曜日

坂の上で

8/13(日)・14(月) 夏休みです。
   15(火) DMの撮影のため16時頃の開店です。

インスタグラムもどうぞご覧ください→👃 


 このところ毎週行ってる出張業務が先方の都合で急遽なくなったので、ぽっかり空いた時間を使って気になってる展示を見てきました。Kaikai Kiki Galleryの『陶芸←→現代美術の関係性ってどうなってんだろう? 現代美術の系譜に陶芸の文脈も入れ込んで』と國學院大學博物館の『モノの力 ヒトの力 縄文から現代まで 人と工芸の間にやどるチカラ』です。二つの展示に共通するのは、会場が駅から少し離れていて、そこに辿り着くまでにかなりの資産を持っていそうな人たちの家々を横目に坂道を上っていくところでしょうか。それと入場無料なところですね。現代美術、陶芸、工芸、骨董、古道具等々、これらのファクターを同一地平上で眺めてみると何が起こり得るか、もしくは何が起こるのかを考え得るか、ということを考えさせられました。とか言って本当はたいして考えてないのですが、ごちゃごちゃと仕入れた物を並べて売ることを身過ぎ世過ぎとする身としては、何かこういう(どういう?)流れが来てそうな来てなさそうな今とは、一体どんな時代なのかを知りたい欲求に駆られます。振り返ってみればあれこれ言えることも、今まさに流れゆく日々に起きていることを言葉にするのは難しいものです。ぜひご覧になってその足で弊店にお運びいただき、ご意見を聞かせていただきたいと思います。ちょっと宣伝がこれ見よがしでしたでしょうか。では、お待ちしております。



Kaikai Kikiは8/30(水)まで
國學院は10/9(月・祝)まで



縄文土器、タイル、現代工芸。

 
 

2017年8月7日月曜日

あの夏、いちばん静かな馬鹿

 何かがゆっくり狂っていったあの夏、僕らはまた性懲りも無くいつもの場所へと向かっていったんだ・・。導入部にそんなナレーションがかぶさりそうな日曜日の大江戸骨董市、生命の危機を賭してまでお運びくださった方々に感謝申し上げます。
 早朝、家のドアを出た瞬間からすでに危険な匂いが漂っていましたが、建物に包囲され人が大勢集まる国際フォーラムではその危険度は最高潮に。延々と35度のぬるま湯に浸かり続けるも、何の効用があるわけでもなく、むしろ時間とともに体力が削られていく「東京有楽町温泉~不快の湯~」といった様相を呈しています。どうあれ手持ちの商品を売らなければいずれ危険に晒されるのだから、暑いのなんのと言ってられません。行商終了まで体力を温存するべく燃料効率のよい動きに徹しておりました。物陰でやけにひっそり静かに商いをしている者を見たとしたら、それが当店、逆光のはずです。どうぞ末永いご贔屓を賜りますようお願い申し上げます。
 折を見て、フルーツパーラーゴトーの食べログ最新記事をのぞいていると、白桃のパフェがすでに出ているとのこと。これはもはや売上の多寡にかかわらず帰りに寄るしかない、事態はそこまで切迫しているんだ!と何の整合性もない理屈に頭が支配されていた午後。それもすべては太陽のせい・・。
 というわけで商いを終えると、店に荷物を置きに戻り、そこから浅草まで猛ダッシュ(気持ちのうえで)。が、すべての果物を提供し尽くしたとかで、本日の営業は終了との無情のお知らせ。この時期のフルーツパーラーゴトーは、やはり時節柄そうした事態が起きるようなので、お出かけは早めの時間をおすすめ致します。そうして異邦人のように途方に暮れながら浅草を彷徨いつつ辿り着いたのが、「珈琲アロマ」です。人として絶対に行かなければいけなかったのに、初めて来た場所。なにしろ、冷たい飲料物とちょっと塩気のある食物を摂取しなければどうにかなってしまう状況下でしたので、レモネード(400円)とホットドッグ(280円)を注文しました。そしてこの地で半世紀以上続き、名店と呼ばれる謂れを身体の奥底で理解したのでした。こういう店を目指して商いを続けていかないとなー、とこれといった根拠もなく思いつつ、重くなった足を引きずって帰宅しました。それではどうぞ今週もよろしくお願い致します。

遠慮しつつ撮ったので半端な写真。
ホットドッグにはペリカンのコッペパンが
使われています。           

唐突に店内写真。行商後の荷物がそのままの散らかった
店内。いろいろあるので、見にいらしてください。  
                 

NY在住の若きアーティストの作品も届いています。
後日ご紹介します。               

2017年8月5日土曜日

ネステッドストラクチャーにおける台形について

8/6(日) 有楽町東京国際フォーラムの大江戸骨董市に出店。

インスタグラムでの商品紹介もどうぞご覧ください→👃


 うつわノート台形がやって来る。いつの頃からか、そんな謎めいた噂が巷に流れはじめました。聞けばこの度の企画では、古書・古物の販売だけではなく、飲食の提供もするというのですから、ふだん国立のお店でやってることをそのまま川越で再現するわけです。もとよりいろんな物や人がやって来るうつわノートですが、今回は店が一軒丸ごとやって来ました。モールに専門店が出店するインショップ形式ではなくて、なにしろ店舗が丸々もうひとつ別の店舗に入れ子のように収まって営業する仕組です。例えてみれば、豊島園の敷地でサンリオピューロランドが操業するようなものでしょうか。一体どういうことなのか。とにかく疑問は現地で解消しろという、宮本常一の心意気で川越までフィールドワークに行ってまいりました。
 国立界隈で台形を贔屓にしている人たちにしてみれば、川越までの出張期間は休業されてしまうのですから、ともすれば理不尽な企画だとも思われかねません。しかし何も思われないでいるぐらいなら、むしろ憎まれた方がいい。「愛の反対は憎しみではなく無関心である」byマザー・テレサ。そんな想いが辣腕・うつわノート松本さんの胸に去来しなかったと誰が言えるでしょうか・・。などと思っているうちに川越に到着。久しぶりの蒸し暑さ復活で、なかなか苛酷な環境の小江戸の街。いつもなら意気揚々と歩いていくところを、思わず小江戸名所めぐりバスに乗り込んでしまいました。うつわノートへは川越駅東口バス乗り場3番から出ている小江戸名所めぐりバスで喜多院前下車、そこから徒歩1分です。
 今回の展示タイトルが『台形展 キッシュロレーヌと土俗面』。もしかしたら有史以来、一度もなかった組み合わせかもしれません。それがどんなものかは、どうぞ実物をご覧になってください。悠久の時の流れをもってしても、出逢うことのなかった物たちによる新たな概念の創出。夏休みの怖るべき思い出づくりに、ぜひおすすめ致します。

入るなりこんな感じです。美味しいスイーツを
提供する場所とは思えません。       


右を見るとこう。

後ろを振り返ればこう。

不可思議な飲食空間。
台形的概念とうつわノート的概念の邂逅。

冷珈琲とタルトフロマージュ。
相当美味いです。