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2017年9月29日金曜日

漆を売るしかない

10/1(日) 有楽町大江戸骨董市に出店
10/5(木)・6(金) 展示会搬入陳列のためお休み
10/7(土)〜15(日) 小野寺公夫の仕事『漆の声、木の文法』

 残暑の苦しみもなく、あっさり秋へと移行した2017年夏。ここ数日は空気の色も冴えてきて、朝晩などは少しばかり肌寒く、いよいよ漆器の季節到来といった感じです。と、前振りがわざとらしくて恐縮ですが、今年も縁あって小野寺公夫さんの漆の仕事を見ていただく機会を設けることとなりました。こちらとしては、「伝説の漆職人の全貌が遂に!」とか「工芸界のまだ見ぬ強豪襲来!」とか「塗りにおけるシェイクスピアの恐怖」などといくらでも煽り文句は思いつくのですが、小野寺さんの質実で素朴な漆器が、そんなインチキな売り口上を撥ね飛ばしてしまいます。とにかく実物を見て触わるに如くはないと思っております。10月7(土)・8(火)・9(月・祝)には小野寺さんご本人もいらっしゃるので、こちらも見て触って、というわけにはいかなそうですが、ぜひいろいろとお話しをなさってください。
 次の日曜日10/1は久しぶりの大江戸骨董市出店ですので、こちらもよろしくお願い致します。夏の厳しすぎる商戦を満身創痍でかいくぐった古物商の起死回生の行商ということで、風冴える秋晴れの下、心の扉を叩く物を見つけに来てください。お待ちしております!
                                     




  


2017年9月21日木曜日

漆の声、木の文法

 昨年の10月に当店で開催して、たくさんの方にお運びお買い上げいただいた鳴子の漆工・小野寺公夫さんの展示会を今年も10/7(土)〜15(日)に行なうこととなりました。Facebookでイベントページを作ったのでぜひご覧ください→
 齢70を過ぎてそろそろ引退も視野に、という頃合いで催した前回の個展が思いもかけない形で小野寺さんの職人魂に火をつけたようで、地元にいては接点のない層の人々が、自分の作った漆器を真剣に選ぶのを目の当たりにして、なかなか枯淡の域になんか達していられないと思ったのかもしれません。まさに漆器業界のランディ・クートゥア、工芸世界のマノエル・ド・オリヴェイラといった趣きです。もっとも小野寺さんは職人ですから、毎年の新作で人の耳目を集めるというのではありません。並ぶ器はオールタイムベストなので、顔ぶれは同じと云えば同じなのですが、それでも質実堅牢な朱塗りの飯椀がずらりと並ぶ様を見れば、志ん朝の抜け雀が何度聞いても面白いように、同じものを持っているのにまた欲しくなるかもしれません。
 と言いつつ、新しい作品にも挑戦しているのが小野寺さんの若々しいところで、今年鳴子に伺った時には、二月堂机や黒塗りのえらくカッコいい盆を見せてもらいました。このあたりの古典と創作の絶妙な加減も、楽しみにしていただきたく思います。7(土)・8(日)・9(月・祝)には小野寺さんが在店されます。東京の喧噪が苦手で来京の依頼にはなかなか首を縦には振らない人ですが、昨年の状況を見れば来ないわけにいきません。この機会に、半ば監禁状態にされた小野寺さんとぜひお話しをしてください。前回品物をお買い上げくださった方は、それをお持ちいただいて、ふだんどんなふうに使っているかを教えていただけると、小野寺さんもきっと東京にいることを忘れて話が止まらなくなることでしょう。
 というわけで、どうぞ皆さま万障お繰り合わせの上お運びくださいませ。

今回のDMです。削ぎ落とされたデザインと漆器の豊穣なイメージの
対比が美しい仕上がりです。                 
 



2017年9月4日月曜日

楽園よりも珍妙な

インスタグラムで商品紹介をしております。どうぞご覧ください→👃


 恩寵が降って湧いたような爽やかな日曜日。しかも店は定休。どこぞで何をしさらそかー、と飛び起きて銀座に行ってきました。まずはエルメスに今季秋冬の新作をチェックしに。というのは当然ウソで、ここの10階で定期的に上映している映画を観に行ったのでした。折々にテーマを定めてそれをタダで(!)見せてくれるのです。エルメスという企業は、この無料サービスに対して従業員4人を配置していて、そのうえ入場時にイタリア製のキャンディーまで配っておりました。ビッグメゾンの、労働分配率を一切眼中に入れない贅沢さに恐縮しながら、最前列に着席。プログラムはマイケル・パウエルの『血を吸うカメラ』という素敵なセレクトです。学者の父親に幼少時に心理実験の対象とされていたトラウマから、殺人を犯すようになった男の話。封切時は酷評に晒されて、以降この監督はまともに映画を撮らせてもらえなくなったという呪われた作品です。ベル&ハウエルの手持ちカメラの三脚の一部が仕込みのナイフになっていて、その刃先を女性にちらつかせて恐怖におののく顔をフィルムに収めるという・・よほど演出が冴えてないと、かなり変な映画になりそうですが、やはり当時はキワモノ扱いだったようです。死後に再評価されて、コッポラ、スコセッシ、ジョージ・A・ロメロ等が影響を受けたといいます。
 そんな呪われ気分を仄かに背負いながら、銀座ウエストでお昼ご飯。トースト、スープ、ケーキ、コーヒー3杯(おかわり自由)という豪気さで呪いを浄めてから、コーヒーっ腹を揺らしながら、資生堂ギャラリーにて開催中の『かみ コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎』へ。エルメス→ウエスト→資生堂なんて、札所巡りみたいな銀座漫遊ぶりですが、意外とこういう定番の組み合わせは今までしてませんでした。それにしても凄まじい人の波。この100分の1でも八丁堀に流れてもらうための動線設計をどうしたらいいのか、星野リゾートの社長になったつもりでシュミレートしてみたのですが、何も思いつかず。
 で、資生堂の展示ですが、紙、石器、土器片、ガラス瓶などを配することで、古代の風景が銀座の地に現れてくるところに感じ入って、結構長い時間見てました。見てるうちにどこかしら旅に出たい衝動に駆られて、交通費の計算などを始めてしまうぐらいでした。
 その後も銀座を多いに闊歩する予定でしたが、コズミックワンダー展に思いのほか魅せられて時間がなくなり、ジャスティン・ガトリンほどの速度でヒューマントラストシネマ有楽町へと駆け付けました。ジム・ジャームッシュの『パターソン』を観なければならないのです。時おりは詩人たちが出入りしたりもする店を商っている以上、必見の映画として以前からチェックを入れてました。とかいって、これで来る詩人の誰ひとりも見てないとか言ったら、片っ端から大型の磨製石斧でメッタ打ちにしてやりたい・・。そんな健やかな暴力性を誘発する毒をジャームッシュはまだ秘めていました。観たら詩の本を手元に置いておきたくなるかもしれません。その時こそ、ぜひ当店へとお運びください。では、今月・今週もどうぞよろしくお願い致します。