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2018年3月16日金曜日

摂津國紀行②

 思い立ったが吉日、新幹線&宿泊のお得セットは早めにゲットしておかないと、時間帯や価格・立地が頃合いのところから売れてゆくわけで、今回もモタモタしてたら、いやに分不相応なホテルに泊まることになったのでした。本来似つかわしい宿との差額は、官窯の脇窯で作ってた堅手の皿一枚分ぐらいでしょうか。空きがあったらしく、予約の部屋よりグレードの高いところを宛てがってもらえ、分不相応感が更にアップ。雑器の皿では味わえない快適ぶりにおののきつつも、窓から外の人々を見下ろしたり、備え付けのフィットネスバイクを漕いだり、梅田阪急で買ったおやつを食べたりしました。
 惰眠の誘惑に抗わずにいると、おそらくそのままチェックアウトの時間になってしまいそうなので、ちょっとだけホテル内を探検してから外へと飛び出す。せっかくの中之島宿泊なので、国立国際美術館に行こうと思っていたのでした。開催中の展示は「トラベラー  まだ見ぬ地を踏むために」という開館40周年の記念展です。地下1〜3階全館をスペースに割いた大規模の展示なので、途中でどこを歩いているのか分からなくなって、それがかえって作品との出会いを偶発的にしていたと思います。ラウシェンバーグの『至点』が出ていたのには驚きました。自分にとっては、1999年に東京都現代美術館でやってた「アクション:行為がアートになるとき」以来の見応えでした。
 さて、宿はもちろん素泊まりでディナーなどは用意されておらず。自前で勝手に食ってこいという話なので、夜の大阪に繰り出さなければいけないのですが、ミナミあたりに飛び出す勇気と元気はハナからない・・。というわけで、あたりをつけておいた新福島方面まで美術館から歩いてみました。徒歩で10分ほど、大通り脇の路地に入ると人工的な中之島の雰囲気が一変、小さな店が軒を連ねています。そのうちの一軒「多幸屋」に入ってみました。またもたこ焼きを10個ほど。憎いKafunに苛まれていなければ、あと25個ぐらいは食べてみたいほどに旨いものを出す店でした。
 次の日。ホテルの売店で買っておいたパンを喰らい、送迎バスで大阪駅へ。そこからJR福知山線で相野駅、さらに神姫グリーンバスで兵庫陶芸美術館へと向かいました。なんとしても見ておきたい「弥生の美ー土器に宿る造形と意匠ー」が開催されています。撮影不可なので、網膜に焼き付けて脳内にアーカイヴしておかないといけません。トーハクあたりでもなかなか見られない西の方の弥生土器がたくさん出ていて、膝から崩れ落ちんばかりに欲しくなりました。市場的にはなにやら縄文推しの当今ですが、べつに弥生がダメになったわけでは全然なく、小津と溝口の両方が偉いように、縄文も弥生も凄いものだと改めて思ったのでした。
 そして帰り、新幹線が停電で止まったとのことで、新大阪の乗り場が人で溢れてました。この手のアクシデントにカッコよく対処する術を知らないので、駅ナカの辻利のスムージーでひと休みするしかありません。掲示板と売店を行ったり来たり。ひとまず551蓬莱の豚まんを食べられたので良しとします。いい加減、お腹もいっぱいだといったあたりでようやく予約の新幹線が入線。ていうか、危うく乗り遅れるところでした。
 新幹線、たこ焼き、胡人俑、李朝陶磁、ブラックマウンテンカレッジ、弥生土器・・同じ組み合わせは東京でも出来るかもしれませんが、まるで違う体験になりそうです。愉しい関西行でした。




ホテルのラウンジ、というのでしょうか、滝が見えますね
国立国際美術館。展示はすべて地下にあります

ロバート・ラウシェンバーグ 第4回ドクメンタ出品作
『至点』。国際美術館が買い上げたんですね。    


多幸屋のたこ焼き。口をつけちゃってますね、すみません。
左が素焼きで右が明太マヨ。出汁がきいているので素焼きでも
十分に旨い。旨すぎる。                

お通し

たこの炙り


ホテル内のうどん屋「今井」にて。きつねうどん。


堅手一枚分の夜景

朝景

相野駅。東武東上線の小川町的な雰囲気。

兵庫陶芸美術館

美術館のレストランから山々を臨む

相野駅の階段。割とかわいい。

兵庫県有年原・田中遺跡出土の土器&器台
途方もなくかっこいい代物。      



 







2018年3月15日木曜日

摂津國紀行①

 美味しいたこ焼きを食べたい、李朝の名品を見たい、という二つの欲望を同時に満たすために大阪へ。東京駅でチキン弁当を買って早朝の新幹線に乗り込む。人はいつだって新幹線のプラットホームに立つとときめきを禁じ得ないもので、この感情の高揚こそが若さを保つ秘訣かもしれないという「新幹線健康法」をにわかに思いつき、出版してくれる版元はないだろうかと妄想を展開しているうちに新大阪に到着。すぐに地下鉄御堂筋線に乗り換えて淀屋橋へ。大阪ではエスカレーターの片側空けが左、つまり人は右に寄るんですね。東京と反対。この文化的衝撃こそ旅の醍醐味です。
 地上に出ると初めての中之島。雰囲気がちょっと日本橋に似てるのですが、もっとおおらかで洗練されてる気がしました。地の利はありませんが、整備が行き届いているので大阪と聞いて思い浮かぶラビリンス感はないので迷うことはありません。図書館前に鈴なりになった雀もふっくらしていて育ちがいい感じ。すぐに目的地の東洋陶磁美術館に着きました。李朝陶磁を見る前に、開催中の「唐代胡人俑ーシルクロードを駈けた夢」を拝見。フタコブラクダ俑のコブの表現に釘付けでした。あのコブは見た目には何かがみっちり詰まっていて堅そうですが、実際の中身は脂肪で触ると柔らかいそうです。だから歩くと振動でたわむのか、俑のコブもそんな感じに左右にしなったような表現になっていました。その手綱を曳く人物俑の姿といい、カッティング・イン・アクションのリアリズムは、日本の造形からすると馴染みにくい強さがあると思いました。
 高麗・李朝に関しては言わずもがなの高嶺の花揃いで、もはや物欲を刺激されようもないのですが、万が一にピンポンパンのおもちゃへ行こう!的なノリで、李朝へ行こう!と館内放送がかかった時に何を奪取するかぐらいの緊張感は携えながら見ていました。
 さて腹も減ったし、そろそろたこ焼きだ。ということで、梅田に戻って激烈に混んでいる阪急地下食品売場の素敵なお菓子たちを横目に地上へ出ると、目当ての「はなだこ」の前には2万人ぐらいの行列。しかしそこで怯んでいたら、大阪にやって来た甲斐がないので整然と列に付きました。順番が来たら横並びのカウンターで立ち食い、待ってる人たちはその背後に並ぶという斬新なシステム。カオスとコスモスが共存している大阪の洗礼を受けたように思いました。たこ焼きはもうこんなのは当然だと言わんばかりに、当たり前に旨かったです。食えと言われたら何個でも食べられそうですが、カオスとコスモスがそれを許さないという感じでした。
 梅田近辺をじゅん散歩ばりに歩いてみたかったのですが、人々に圧殺されそうなので、またも淀屋橋にターン。旅慣れた人には叱られそうなほど移動の効率がとんでもなく悪い。ひとまず宿にチェックインしてエナジーをチャージすることにしたのでした。
つづく・・



プリッとした感じを表すために全霊を込めた、そんな
気概が漲るラクダのコブです。          
                  
御堂筋線淀屋橋駅を出たところ
中之島の図書館

図書館の天井

階段



道が広くて歩きやすいです



太鼓腹が素敵な胡人俑

ラクダを操っているパントマイム感がよく表されてます

みんなが欲しがるものですね

これも

これも

大胆な鉄絵

本気なのか、と問いたくなる思い切りの良さ

元の染付。一発逆転アイテムですね

梅田の横断歩道脇で歌っていた南米の人と思しき男性
ランバダを熱唱してました。たこ焼き待ちの時   



2018年3月7日水曜日

ある光〜三月のランチ

インスタグラムで店内商品を紹介しております→👃 


 ゆで太郎八丁堀店、衝撃の撤退劇からひと月半。その後、心の隙間を埋めることができずにいる人々が空き店舗の前に集まり、鎮魂祭を催したという話などは聞かず・・。かつてあの場所に来ていた人たちも、今はきっとそれぞれのランチロードを歩み始めたのだろうから、自分だっていつまでもコンビニのおにぎりでお茶を濁しているわけにはいきません。とりあえず勇気を奮って新たなランチへの一歩を踏み出し始めたので、その記録を残しておきます。
 この辺り、ビルの谷間の暗闇のように思われがちな界隈ですが、古い低層建築や猫が横切る路地といった昭和三十年代的雰囲気を残しているのが、新大橋通りから西北に走る八丁堀二丁目の通りで、二八通商店会というそうです。見ればけっこう旨いものを出しそうな店が並んでいるというのに、人はいつの世も地元に冷淡というか、灯台下暗しというか大正デモクラシーというか、開業して4年経とうとしていながら、行きつけの店が一軒もないのでした。
 で、大通り方面から入ってすぐ左手の「原価ビストロBAN!」に潜入。ランチでは、昨今グルメバーガーとか呼ばれてるちょっと豪華なハンバーガーを提供してます。今までに3回入って3回ともチーズバーガー(756円)を注文。松竹梅でいえば竹に相当ですね。チョイスが保守的すぎるでしょうか。肉的な何かをガッツリ食べたい時にはおすすめです。コールスローとフライドポテトと飲み物が付いてます。
 少し先に行くと、1930年創業のとんかつの山城屋が見えますが、その向かいにあるのが「藤川商店」。店先の看板で目を引くメニューに、男の唐揚げと女の唐揚げ(各700円)というのがあって、食べ物とジェンダーの問題に鋭く切り込んでいることが伺えます。もちろん性別に関係なくどちらを頼んでもかまいません。ただ、女の唐揚げを注文すると「はい、おんな一丁〜」と甲高い声で厨房にオーダーが通るので、その時にやや頬を赤らめてしまいがちです。女の唐揚げがポン酢、男が油淋鶏味です。小振りの唐揚げが5個に白飯、赤出汁の味噌汁、小鉢が2つと香の物が付きます。次回使える50円引き券を会計時にもらえます。
 というわけで、今はリハビリ期間でまだ2軒だけですが、折を見ていろいろご紹介するつもりです。そのうち商店街の顔にでもなれば、通りを歩いているだけで店先から食べ物を投げてもらえたり、子供たちが後ろから付いてくるかもしれません(ロッキーのトレーニングシーンのイメージ)。
 気温の上下動が激しかったり、花粉が飛びまくっていたりと、なかなか苛酷な3月ですが、逆光店主は確定申告も提出し終えて割とさっぱりとした心持ちなので、ぜひ遊びにいらしてください。


チーズバーガー
見てたら食べたくなりました
女の唐揚げ
食べたいですね

藤川商店の店先
あえて入りづらい店構えなのが心憎いところ